トップは「決断」ではなく「臆測」でモノを言う 間違いが判明したとき修正できる人は「まれ」

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イギリスの公共放送BBCには、この迫りくる転換点に何らかの対応策を講じたいとの強い願望があった。その結実として2008年に生まれたのが、デジタル・メディア・イニシアティブ(DMI)というプロジェクトだ。当初の狙いは、「完全にテープレスの」デジタル映像制作のワークフローを創出することだった。

このプロジェクトの対外的な顔役を務めたのは、同社の技術ディレクター、アシュリー・ハイフィールドだ。BBCの監督機関であるBBCトラストは、このプロジェクト発足を承認し、8100万ポンドという莫大な資金を拠出。BBCに以前から技術提供をおこなっていた民間企業シーメンス(Siemens)が本プロジェクトの請負業者として選ばれ、さらにデロイト(Deloitte)からのコンサルタント支援も受けることとなった。

ちなみに、元々の計画では総計9960万ポンドの利益が見込まれていたという。当時、ある技術パートナーはこう説明している。「DMIは、BBCがオン・デマンドとマルチプラットフォームといったデジタル環境に対応するために、また、コスト効果の高い新たな配信サービスに向けて再利用可能な基盤を提供するために、全社を挙げて取り組むプロジェクトだ」

何のために“これ”をするのか

後から振り返ると非常に明白な事柄がいくつかある。それらはすべて、検証されていない予測にもとづくものだった。それを1つずつ順に解説しよう。

まず、第1の未検証予測は、このプログラムは効率性を重視した比較的単純な作業プロジェクトとしてアプローチできるというものだった。ところが現実には、処理ワークフローにそれほど劇的な変化があれば、抜本的なビジネスモデルの変革が必要になるのは当然だ。つまり、組織の中核ワークフローまで手を伸ばして変革しないかぎり、このプロジェクトが成功することはあり得ないのだ。要するに、その抜本的な改革によって、初めてこの新たな技術導入に必要な──再編成したマネジメント体制を含む──環境をつくり出すことができるということである。

シーメンスとの委託契約は、規定の納入物に対して規定の価格を支払うという固定価格制にもとづいていた。こうした契約が定められるのは、元来、作業内容やその結果に求められるものが明らかな場合である。ユーザーの立場から言えば、(この契約では)シーメンスが具体的に何をしているかを──根掘り葉掘り──BBCから質問することは難しくなる。こうした干渉は、ともすると固定価格の意図を否定するものと解釈されかねないからだ。

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