これは企業の内部統制に関わる話であり、さきほど説明した三権分立について、多くの企業では社員教育がなされている。ただ、現実的には突然にモノが不足したとする。明日までに客先に納品せねばならない。そんなときルール外だが、現場の担当者が電話で注文し、取引先まで商品を取りに行って受領書にサインすることがある。契約をする前に取引を成立させてしまうのだ。
事後で調達部門に連絡があれば防ぎようがない。その過程で“荒っぽい”交渉がありうる。先の建設メーカー調達責任者が続ける。
「困ったのが、会社の問い合わせ窓口に、いきなり取引先から申し入れがあったんですよ。『価格交渉が強引だから、出荷を停止します』と。あきらかに調達部門が悪いと誰もが思う。でも、聞いてみたら、調達部門の人間じゃなく、現場の人間が悪かった」
とはいえ、社内への啓蒙も調達部門の役割といえなくはない。
透明な取引の実現を目指して
この連載では、下請けイジメだ、とイジメられる大企業の現状について現場の赤裸々な現状をレポートをしてきた。しかし最終的には、大企業側の問題も指摘して一旦の報告としたいと考えている。
大企業ではコンプライアンス意識の高まりから、仕入先に対してできるだけ真摯に値上げ幅を査定し妥当な価格アップを実現しようとしている。情報を入手しにくい現状も報告しておいた。ただし、その意識は大企業のあらゆる部門にも行き渡らねばならず、その徹底は課題として残るだろう。
また、読者の企業でもときとして合理的ではないが、それでも「価格を下げてほしい」と交渉するケースはあるだろう。そのときにはとくにできるだけ背景を説明し、そして仕入先の納得を得たうえでの取引を実現するよう試みねばならないだろう。
さらに、前向きに考える人もいる。鉄鋼業の調達マネージャーは語る。
「ある意味でチャンスだと思いますよ。なぜなら旧世代のやり方が潰えたといえなくもありません。つまり、中小事業者をたたいて価格交渉するだけの方法です。価格を下げたいのであれば、真に効果的な方法を模索せねばなりません。たとえば仕様を見直すとか、条件を見直すとか。そんなことはずっと前からいわれていたんです。でも現場では交渉だけで価格を下げようとする人たちばかりでしたからね」
そう、これからは透明性の時代だ。どんな交渉でも公平・公正にせねばならないし、コストを削減したいと思ったら、根拠をもった交渉をせねばならない。当たり前の話だ。そして理想的には仕入先と買い手がお互いの立場を十分に説明しつつ交渉を重ねること。ここにしか解決策はないように私は思う。公正取引委員会や中小企業庁に関わりなく、売り手と買い手の融合が進むことを期待したい。
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