大企業も望まぬ「下請けイジメ」生む日本の商習慣 旧世代の悪しき値下げ脳に現世代が苦しむ訳

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下請け事業者を含む仕入先が値上げを認められていないと社会的に問題になった。原材料市況が上昇しているのならば、そのコストアップは認めなければならない。認めなければ優越的地位の濫用になりうる。しかし、と機械メーカーの調達幹部がいう。

「だから私たちも取引先にアンケートを実施しました。私たちが強引に価格を抑えようとしている例はないのか、と。社会問題になる前に解決しようとしました。すると、アンケートで『価格改定をまったく認めてもらっていない』と書いた仕入先がいました。

しかし、そこは月間で数万円しか取引をしていないんですよ。値上げ額も、月に1000円といったところでしょうか。さらに、その仕入先は値上げの申請もしていませんでした。これで優越的地位の濫用といわれると、こちらの部員を励ます言葉がないですよ」

継続前提の取引価格と、現場に委ねる体質に問題がある

しかし、考えてみると不思議なことではないだろうか。たとえば、製品を売りたい人がいる。そして買いたい人がいる。2024年まで100円で契約した。それなら2024年までは売り手は100円で売らねばならない。明確だ。

そして、その金額では儲けが出ないのであれば、契約更新時に110円に値上げを申請する。買い手が110円の価値がないと思うのだったら、その売り手からは買わない。異なる売り手を探す。たったそれだけのことではないだろうか。

現実的には、日本企業間の取引価格は継続が前提となっていて、明確に「◯◯◯◯年○月○日まで有効な価格」と取り決めることは珍しい。このように、日本の商習慣の問題がある。さらに、もっと問題は契約の締結以前に、勝手に企業の現場が交渉してしまうケースがあることだ。

問題はサプライチェーンや調達部門だけではない。どの企業でも調達部門が取引先と価格交渉をするように規定で定めている。しかし現実的には現場や設計者などが取引先と価格交渉をしてしまうケースは多い。

外資系企業は三権分立といって「製品仕様を決める人(=設計部門)」「取引先を決める人(=サプライチェーン・調達部門)」「検収を行う人(=生産部門)」と厳密に分けることで内部統制を実施している。しかし、日本企業では権限が融解しているケースがある。建設メーカー調達責任者が語る。

「現場には荒っぽい人がたくさんいてね。たとえば現場でモノが足りなくなっちゃうと、調達部門を経由すると時間がかかるから、取引先に電話してしまう場合があるんですね。そして電話口で『もうちょっと安くしろよ』と強引にお願いしてしまう」

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