「斎藤佑樹」の活躍に目を細める栗山の野球哲学 ビジネスの世界でも応用できる「ギバーの精神」

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愛弟子の多方面での活躍に目尻を下げる一方で、短期決戦のWBCで勝ち切るためには新たなリーダーシップスタイルを探求する必要性を感じたという。

その過程において頭をよぎったのは、京セラ創始者の稲盛和夫氏から学んだ「小善は大悪に似たり。大善は非情に似たり」と言う教訓だ。人間関係における良心的で思いやりや愛情のある接し方の重要性を示す一方で、盲目的な愛情ではなく、時には厳しく接することの必要性を強調している。

選手たちへのフォロー

イタリアとの準々決勝を前に村上宗隆選手の打順を4番から5番に下げたときの決断や、チームに戻ればクリーンナップを担う選手たちを控えに回すときの心のフォローを栗山氏はどのように行っていたのだろうか。

栗山英樹
「自分の決断に対して選手たちが『この野郎』と思ってもいいんです。これも『勝負だからしょうがないよね』っていうところには、選手の気持ちが行ってくれるかなと思った」(写真:矢口亨)

「『イヤな思いさせて悪かったな。これはチームが勝つためなんで』ということは、全体には伝えました。ただ、超一流選手なだけに、それをあまりフォローするのは違うと思ったんです。最後は超一流選手同士の競争であり、チームが勝つためにやっているという前提があるので、超一流選手ならそれを理解してくれる。

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自分の決断に対して選手たちが『この野郎』と思ってもいいんです。これも『勝負だからしょうがないよね』っていうところには、選手の気持ちが行ってくれるかなと思った。

ただし、コミュニケーションはすごく取っていました。『悪いな、行くぞ。今日はチャンスあるからね』。でもあまり『試合出れないでごめんな』みたいなのをやりすぎると、逆にプライドを壊してしまうと思ったんで、やりすぎないように注意していました」

著書の中で触れられていたWBCの舞台裏での選手たちへの配慮とあえての非配慮。そのバランスが絶妙に織りなされることで、一流のプレーヤーたちは自己の持つ力を最大限に発揮し、チーム全体としての力を引き上げることができた。

ビジネスの世界でも、一流のプロフェッショナルを集めたチームのマネジメントには、適度な競争とコミュニケーションが求められる。

一流の選手たちを巧みに取りまとめながらチームを世界一に導いた栗山氏の采配には、指揮官としての確固たる信念と洞察力が垣間見えた。その礎として必要不可欠なのは、日本ハムの指揮官を10年間務め上げた際に培った徹底的に相手を思いやるというギバーの精神にほかならないだろう。

(後編:『栗山氏「二刀流正しかったか"わからない"」の本音』)

矢口 亨 フォトグラファー/ライター

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やぐち とおる / Toru Yaguchi

山形県上山市生まれ。上智大学文学部新聞学科卒。2023年2月に報知新聞社を退社しフリーに。著書に「羽生結弦2019-2020」、「羽生結弦2021-2022」(いずれも報知新聞社)など。X(旧Twitter)はこちら、Instagramはこちら

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