AI契約書審査サービスが開けた弁護士法の「風穴」 「法律分野のAI活用」を急加速させる指針が登場

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そこで、外国の弁護士法と法的サービスの関係について聞くと「欧米ではソフトウエアによる法律関連のサービスは弁護士法の対象からは外されている」という返事が返ってきた。

日本では、AIが進化すると、弁護士法との関係が問題になるが、海外ではすでにその心配もない国があるということだ。チャットGPTの登場によって、AIをめぐる環境は大きく変わった。明日、どんな技術が飛び出してくるかもわからないのがAIの世界だ。早めに次の障害を取り除いておかないと、またITの世界で日本が取り残されかねない。

ともあれ、今回のガイドラインが出たことで、法律関連サービスの事業者のストレスは大きく減ったようだ。

弁護士ドットコムは6領域で事業開発を開始

弁護士ドットコムは2005年の創業以来、無料でオンライン法律相談を提供するなど、常に弁護士法違反を意識しながら事業をしてきた。同社の元榮(もとえ)太一郎社長は「今回は契約書レビューにフォーカスされているが、弁護士法の考え方に対しての一定の整理がわかるので、類推適用ができる」と話す。

事業戦略について話す弁護士ドットコムの元榮太一郎社長(7月26日、写真:筆者撮影)

同社は8月1日、早速プレスリリースを出して「ガイドライン公表によって、安心して多くのリーガルテックビジネスが展開可能になった」として「6領域21ビジネスの事業開発を開始することをお知らせいたします」とぶち上げた。

従来の法律相談業務、弁護士向け業務などの強化に加えて、コンプライアンスチェック、ドキュメント作成、リサーチ・デューデリジェンス支援などの業務でも開発を進めるという。

コンプライアンスチェックでは、広告が「景品表示法」や医薬品・医療機器などの規制に違反していないかどうかのチェックに、またM&A(合併・買収)の際のデューデリにAIを用いた支援などに乗り出すという。

法務省のガイドラインは「AI等を用いた契約書等関連業務支援サービスの提供と弁護士法第72条との関係について」というタイトルで、契約書関連に絞ったものだが、それでも「ぎりぎりチャレンジしてみようと作成した」(司法法制課)としている。「類推適用」で市場を広げようとする民間事業者に無用のブレーキがかからないことを期待したい。

松浦 新 朝日新聞記者

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まつうら しん / Shin Matsuura

1962年愛知県生まれ。東北大学卒業後、NHKに入局。1989年朝日新聞入社。東京本社経済部、週刊朝日編集部、特別報道部、経済部などを経て、2017年4月からさいたま総局。共著に『ルポ 税金地獄』『ルポ 老人地獄』(ともに文春新書)、『電気料金はなぜ上がるのか』(岩波新書)、『プロメテウスの罠』(学研パブリッシング)ほか。

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