「60歳前後での結婚」は実際問題、うまくいくのか 夫婦仲に加え、気になる健康や親戚関係

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明子さんは現在も東北にある実家で親の介護をしながら在宅ワークをしている。東京にある明子さんの持ち家には淳平さんが一人で暮らしていたが、その使い方への不満が消えなかった。

「今は彼が住んでいるのだし家賃も入れてもらっていたのだから、片付いていなくても彼主体と割り切れれば良かったのですが、『私の家なのに!』という気持ちが捨てきれず、自分の領域を汚される気分になっていました。そこは完全に私が悪かった部分です」

淳平さんにも片付けができない以外の問題があった。寂しがり屋で浮気性なところだ。

超晩婚生活で養われるもの

「彼はいつも誰かと一緒にいたいんだと思います。私が介護で実家に戻ることはわかっていたことでしょ?と思っていたけど、ちょっと浮気したみたいです。詰めが甘いので私に見つかってしまいました。実際の距離も離れているところにそういうことも起きたので、関係も徐々に薄れていった感じです」

そんな別れ方をしたのに明子さんは淳平さんとときどき会っている。なぜか。

「私は人間関係をあんまり切りたくない性質なんです。30年近く前の元カレや昔の同僚なんかとも続いています。一度は深い関係を持った相手でお互いに憎み合ったわけでもないのなら、困ったときには助けてあげたいと思います」

浮気をされたとしても相手だけが一方的に悪いわけではない、という達観。そして、危険ではない人間関係はこちらから完全に断ち切ったりはしない、という知恵。人生経験が豊富な大人ならではの決着のつけ方かもしれない。

東京に戻るときはスッキリした部屋に帰れて快適で、友人を招いてもまったく恥ずかしくないと語る明子さん。憎めないキャラクターだけどだらしないところがある淳平さんとの共同生活がストレスになっていたのだろう。彼との人間関係が続いていることもあり、寂しさは不思議なほど感じていない。

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「改めて次のパートナーを探そうともしています。恋愛感情は生じていないものの、歩き友だちはできたので中山道を一緒に歩き始めました。結婚や同居という形はもう要らないかなとも思いますけど」

配偶者の介護、乳幼児の子育て、定年後の生活、高齢の親の看取り、事実婚関係の終了……。60歳を超えて結婚した“超晩婚さん”たちが向き合っている課題や環境はさまざまだったが、共通するのは自分自身の気持ちと生活を最優先しつつ、配偶者を含む親しい人たちと折り合いをつけていく姿勢だと思う。

何よりも自分が快適に過ごせること。そして、身近な人も幸せになること。きっと両立できるという図太い信念のようなものが、超晩婚生活によって養われているのだ。

本連載に登場してくださる、ご夫婦のうちどちらかが35歳以上で結婚した「晩婚さん」を募集しております(ご結婚5年目ぐらいまで)。事実婚や同性婚の方も歓迎いたします。お申込みはこちらのフォームよりお願いします。
大宮 冬洋 ライター

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おおみや とうよう / Toyo Omiya

1976年埼玉県生まれ。一橋大学法学部卒業後、ファーストリテイリングに入社するがわずか1年で退社。編集プロダクション勤務を経て、2002年よりフリーライター。著書に『30代未婚男』(共著、NHK出版)、『バブルの遺言』(廣済堂出版)、『あした会社がなくなっても生きていく12の知恵』『私たち「ユニクロ154番店」で働いていました。』(ともに、ぱる出版)、『人は死ぬまで結婚できる 晩婚時代の幸せのつかみ方』 (講談社+α新書)など。

読者の方々との交流イベント「スナック大宮」を東京や愛知で毎月開催。http://omiyatoyo.com/

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