AIは今後「ドラえもん型」を開発すべき納得の根拠 きちんと認識すべき「生成AIの本質」とその怖さ

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栗原:食べ物で偏食すれば、ほんとに体を壊すじゃないですか。肉体的な苦痛を伴うからこそ、僕らは是正するわけですよね。しかし、情報の場合は違います。

例えばいわゆるエコーチェンバーが進んだときに、回り回っていろいろな悪影響が表出してくるわけですが、それらが「情報的に偏ったものを摂取していたからだ」と短絡的に結びつくとはいえないわけです。

山本:そこは重要ですよね。ですので、まずはその「結びつき」をしっかり実証し、可視化する必要があると思います。

先日、先生の研究室が開催している勉強会で、若い方が「自分の情報摂取傾向を可視化できるアバターをつくったらどうでしょうか」と発言されているのを聞いて、とても面白いと感じました。例えば、特定の情報ばかりを摂取していると、自分のアバターがどんどん太っていく。で、最終的にパタリと倒れてしまう……。

アバターが倒れてしまうと、運転免許証更新の際に受ける講習ではないですが、リテラシー動画を見ないとSNSのサービスが使えなくなるとか、何らかの不利益とリンクさせる。

そうすると、「アバターをなんとか健康な状態にしておこう」「そのために、いろいろな情報に当たってみよう」というモチベーションが生まれます。表現の自由との関係に細心の注意を払いつつですが、そのような連関がつくれるといいかなと思いました。

栗原:そうですね。情報の偏りというネガティブなものが、具体的に可視化などできるといいですよね。

最後は個人の自律的で主体的な判断を尊重すべき

山本:はい。ただ、注意しなければならないのは、個々人に情報的健康を強制できないという点です。憲法論からすると、究極的には、自分が好きな情報ばかりを摂取する自由は否定できません。

「健康」をスローガンに特定の情報を押し付けたり、特定の情報を遮断したりするのは憲法上の権利の侵害になるし、民主主義にとっても大変危険です。食べ物だって、あれを食べろとか、これを食べるな、と“強制”することはできない。最後は個人の自律的で主体的な判断を尊重すべきです。

第三者ができるのは、健康になりたいと願う人に適切な情報を提供し、健康に向けた取り組みをナッジ(行動科学の知見から「自分自身にとってよりよい選択」を自発的に取れるように手助けするアプローチ)していくことなのだと思います。

山本 龍彦 慶應義塾大学大学院法務研究科教授

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やまもと たつひこ / Tatsuhiko Yamamoto

1976年生まれ。2005年、慶應義塾大学法学研究科博士課程単位取得退学。博士(法学)。桐蔭横浜大学法学部専任講師、同准教授を経て現職。2017年、ワシントン大学ロースクール客員教授、司法試験考査委員(2014年・2015年)。主な著書に『デジタル空間とどう向き合うか』(日経BP、共著)、『AI と憲法』(日本経済新聞出版社)など。

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栗原 聡 慶應義塾大学理工学部教授

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くりはら さとし / Satoshi Kurihara

慶應義塾大学大学院理工学研究科修了。NTT基礎研究所、大阪大学産業科学研究所、電気通信大学大学院情報理工学研究科などを経て、2018年から現職。博士(工学)。電気通信大学人工知能先端研究センター特任教授、大阪大学産業科学研究所招聘教授、人工知能学会倫理委員会アドバイザーなどを兼任。人工知能学会理事・編集長などを歴任。人工知能、ネットワーク科学などの研究に従事。

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