お粗末なロンドンの水道が示す「民営化」の末路 老朽化で水漏れに汚水放流、再国有化に支持

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そこには規制産業である水道会社特有の水道料金の決定方式が関係している。地域独占で競争が少ない水道会社は、利益確保のために高い水道料金を設定し、利用者に不利益をもたらす恐れがある。

そこで水道事業を監督する水道サービス規制庁(Ofwat)は5年毎に、各水道事業者から提出された事業計画に基づき、「消費者利益の保護」と「水道事業の適切な機能維持」が両立可能な水道料金の上限価格や資金計画などを承認する。規制庁は事業計画の遂行状況を毎年確認し、目標を達成した場合には事業者に報奨金を支払い、未達の場合には罰則金を科す。

水道料金がインフレに連動するため、負債もインフレに連動させることは合理的な選択であった。だが、過去の規制価格がRPIに連動していたのに対し、次回の価格設定からはCPIHを用いることが決まっている。物価上昇によるインフレ連動債の返済負担が、料金値上げで調整しきれない。

安定供給のための「一時国有化」カード

今回の最大手水道会社の経営難を巡っては、一時国有化への懸念も市場の不安を増幅させた。一時国有化となれば、既存の株主や債権者は何らかの損失負担を負う可能性があった。

規制業種である水道事業には、経営難や義務違反で水道事業の継続が困難と判断された場合、国が一時的に特別管理下に置くSAR(Special Administration Regime)と呼ばれるスキームがある。公共性の高い事業の継続と危機の波及防止を目的としており、2021年には経営難に陥ったエネルギー企業に用いられたことがある。

SARの目的は、国が水道会社の経営権を取得することではなく、事業継承会社の選定・交渉・売却を終えるまでの間、水道や下水道サービスの安定供給を続け、顧客を保護することにある。また、水道会社が経営難に陥った場合も、納税者が損失を負担するリスクを軽減することにある。

SARの発動条件は、①水道会社が法律上の義務を果たさず、是正措置を取らない、または取れない場合、②不適切な経営判断や事業コストの予期せぬ大幅上昇で、資金繰り、資本増強、借り換えができない場合に限定される(1991年水道事業法)。

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