樋口恵子さん、同級会「120人が40人に減」への思い 介護用品の進化で「諦めていたオペラ鑑賞」叶う

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樋口:だけど、行ったのはいいけれど帰りが大変なんですよ。指揮者の手がとまって「ブラボー」が始まる寸前には席を立って外に向かわないとだめ。でないと、長蛇の列で永遠にタクシーを待つことになるでしょう。帰るエネルギーを失っちゃうから。

その日も必死の体で会場を出たんだけど、前の道が工事中でタクシーをどこで待てばいいかわからなかったんですよ。「ここで待っていればタクシーは来るでしょうか?」と工事の現場主任みたいな人に聞いたら、「通行止めではないからじきに来るでしょう」と。そのうちホールから出て来た人たちがゾロゾロやって来て、みんなどこで待てばいいかわからずウロウロしている。

すると、最初に声をかけた主任さんが「このおばあちゃんが一番先ですよ」と叫んでくれて。あんなふうに真っ向から「このおばあちゃん」と言われたのは、87歳にして初めてでした(笑)。

上野:ショックでした?

樋口:それが全然ショックじゃなかったの。なぜなら「このおばあちゃん」という主任の言い方がとっても優しかったから。まわりには自分が先だと思っていた人もいて、 何やら怒ってましたけど、主任が「このおばあちゃんが、さっきから待ってるんですよ」「このおばあちゃんが一番先ですよ」と何度も叫んでくれたので、その声に押されるように最初に来たタクシーに乗りこむことができました。

並んでいた人のなかには、「このおばあちゃんって、結構有名な人だよ」と言ってくださる人がいたり、車に乗ってからバイバイと手を振ったら振り返してくれる人がいたり。まわりの人たちのいたわりの気持ちが感じられて、とてもハッピーな出来事でした。

上野:世の中には、趣味の対象そのものが好きな人と、趣味の人間関係が好きな人がいますね。わたしの場合は昔からひとりで行動することに慣れていて団体行動はほとんどしないから、趣味のスキーもひとりでゲレンデに行ってます。どんなに気持ちがいいことか! でも、男友だちとは行きますよ。そう、男は調達するの(笑)。

樋口:そういえば、上野さんと一度、ばったりオペラの公演でお会いしたことがあったわね。車いすの男性を介助されていて。偉いと思った!

上野:見られていたか(笑)。あのときは、「車いすになっても諦めなくてもいいんだよ」と言って、あのおじさまを連れ出したんです。確かに、優秀な尿漏れパッドのおかげで、趣味のやめどきが延びました。

海外は移動や時差が苦痛に

樋口:私はもう海外旅行はやめました。体力がもたないし、国内はまだ歩けても海外は付き添いがないと心配で。あと税関の行列を立って並ぶ時間が耐えられないのよ。

上野:そういうときは車いすですよ。車いすでもストレッチャーでも使えば、今はどこへでも行けちゃいます。

樋口:それでも行こうという気概があるかどうかよね。上野さん、じいさん、ばあさんのための車いすツアーをやってよ。そしたら、私も応募するから。

上野:気持ちはわかりますが、わたしは団体旅行が大嫌い。それに、最近は時差のあるところに行くのが、わたし自身つらくなりました。だんだん時差が簡単に抜けなくなってきてます。だから海外に行くと、この景色もこれが見納めという気持ちで眺めております。

樋口:まだ早いんじゃない? 80歳までは大丈夫よ。私も上野さんの年齢のときは平気で行ってたもん。

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