日本郵政、楽天グループ株「巨額評価損」で蘇る悪夢 大型投資で連戦連敗の「呪縛」から逃れられるか

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次の四半期末となる9月末や12月末、来年3月末に取得時の50%に当たる573円を下回っていなければ、楽天株の評価損を計上しない。これは日本郵政独自のルールではなく、IFRS(国際会計基準)で一般に広く認められている会計処理だ。

具体的には楽天株が9月末に573円を上回った場合、第2四半期(7〜9月期)に戻し入れ益850億円を特別利益として計上する。第2四半期累計(4〜9月期)では、第1四半期の特損850億円も第2四半期の特益850億円も計上しない。つまり、損益計算書上は「何もなかった」かのように記載する。

楽天株は7月5日終値で520円に回復している。目安の573円超えまであと一息だ。

楽天との提携関係は崩れない

来年3月末の通期決算となると話は別だ。この時に楽天株が運命の573円を下回っていれば、翌4月1日に洗い替えはしない。つまり減損が確定する。会計的には、通期末は洗い替え法ではなく「切り離し法」を使うことになる。このときに初めて楽天への投資は失敗だった、と言えるのかもしれない。

楽天株の評価損を発表する3日前、6月27日の定例会見で「『楽天は最高のパートナー』という思いは今も変わらないのか」と聞かれた増田社長は、「業務提携はDXを進めていくうえで楽天の人材やノウハウに期待してのこと。物流事業の拡大を進めていくうえでも重要。楽天の物量は増えている。楽天の提携関係を崩すには至らない」と胸を張った。

日本郵政は大きな投資で成功したためしがない。2010年には日本通運のペリカン便を吸収。ヤマト運輸や佐川急便の宅配便2強に食い込もうとしたが大量の遅配を出し、2強に迫ることはかなわず、現在に至る。

2015年には豪物流会社トール・ホールディングスを6200億円で買収。海外物流に打って出ることを東証1部(当時)上場時の成長シナリオとした。だがトールは業績不振が続き、4000億円の減損を計上している。

ペリカン便でもトールでも、投資をした時点で描いた絵はきれいだったが、描いたシナリオを実現する力に欠けていた。楽天への投資でも描いた将来は美しいが、はたしてやり抜くことができるだろうか。

山田 雄一郎 東洋経済 記者

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やまだ ゆういちろう / Yuichiro Yamada

1994年慶応大学大学院商学研究科(計量経済学分野)修了、同年入社。1996年から記者。自動車部品・トラック、証券、消費者金融・リース、オフィス家具・建材、地銀、電子制御・電線、パチンコ・パチスロ、重電・総合電機、陸運・海運、石油元売り、化学繊維、通信、SI、造船・重工を担当。『月刊金融ビジネス』『会社四季報』『週刊東洋経済』の各編集部を経験。業界担当とは別にインサイダー事件、日本将棋連盟の不祥事、引越社の不当労働行為、医学部受験不正、検察庁、ゴーンショックを取材・執筆。『週刊東洋経済』編集部では「郵政民営化」「徹底解明ライブドア」「徹底解剖村上ファンド」「シェールガス革命」「サプリメント」「鬱」「認知症」「MBO」「ローランド」「減損の謎、IFRSの不可思議」「日本郵政株上場」「東芝危機」「村上、再び。」「村上強制調査」「ニケシュ電撃辞任」「保険に騙されるな」「保険の罠」の特集を企画・執筆。『トリックスター 村上ファンド4444億円の闇』は同期である山田雄大記者との共著。

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