がん病理医「憎まなければ、がんは悪化しない」 心の片隅でいいから、ぜひ覚えてほしいこと

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がんの専門家としての答えはこうです。

「もし、がん細胞を止められるのなら止めるのがいい。でも、止められないのなら、そのがん細胞の周囲の細胞がしっかり生き続けることが大事。がん細胞が発生したとしても、周囲の細胞がしっかりしていれば、がん細胞はあまり悪化しない」

これを参考にすると、「困った子供にどう対処すればいいのか」ということについても、答えが出せます。

「困ったことを止めさせることができるのならそれでいいですが、そうでなかったら、家族や近親者がしっかり生活を続けることです」

そうしているうち、その子供は困ったことをやめることがありますし、少なくともあまり悪化はしません。

がん細胞はあなたの不良息子

なかには、こう思う人もいるでしょう。

「そんな答えでは、根本的な解決にならないじゃないか」

確かにそのとおりです。ですが、わかってほしいことが2つあるのです。

まず1つは、「がん細胞はあなたの不良息子」ということ。

これも、私が「がん哲学外来」でときどき使う言葉ですが、ここには、困った子供に対するときの、とても大切な事実が含まれているんです。

昔、困ったことをする子供のことを「不良」と呼びました。こんな言葉、今ではほとんど使わないのでしょうが、昭和の頃は日常的に使われたものです。例えば、「不良少年」とか「不良少女」といった具合に、「不良」というのは、感情の爆発を抑えることができずに、社会や学校のルールを破るような子供たちのことを意味していました。

がんは自分自身の分身です。自分の遺伝子でできた細胞ですから。また、あなたの子供もある意味で自分の分身と言えるのではないでしょうか。遺伝子の半分は完全に自分と同じですし、赤ん坊の時から自分で育てた子供ですから、良くも悪くも自分と同じような面のある存在です。つまり、がんも不良息子も、困ったことをする自分の分身という意味で同じなのです。

先ほど、がんが人生に似ていると言いましたが、似ている理由は、自分の不良息子に苦悩するのが人の一生だからかもしれません。それどころか、人間の一生の課題は不良息子との和解だと言ったら極論になるでしょうか。

でも、不良息子の困った性格や行動が、親である自分自身の弱点と重なっているとしたら、人は自分の一生をかけてその弱点と対決しなければならないという見方も、あながち間違ってはいない気がします。

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