通貨防衛する日本は今や米国の脅威ではないのか 喜んでいられない為替報告書「監視リスト」除外

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また、経常黒字の構造以上に、日本の監視リスト入りの必要性を下げているのが③の為替介入に関する論点である。周知の通り、日本は2022年、通貨防衛の為替介入(ドル売り・円買い介入)を行っている。

しかし「貿易赤字国が通貨安を防ぐために介入した」というのが客観的事実であり、「通貨安で不当な黒字を稼いでいる」という指摘が及ぶような存在ではない。あくまで為替政策報告書が忌み嫌うのは「自国通貨高が嫌でドル買い介入をする貿易黒字国」であって、日本のように「自国通貨安が嫌でドル売り介入をする貿易赤字国」は警戒の対象外である。

「日米貿易摩擦」も今は昔

もちろん、為替政策報告書の警戒から外れたこと自体は、日米関係を総合的に論じる立場からは悪い話ではないのかもしれない。だが同時に、アメリカの通商政策上、日本は「敵対視するほどの力を持たなくなった」という見方も可能だろう。

四半世紀前の日本は、自動車や鉄鋼などの主要品目を争点としてアメリカと熾烈な貿易摩擦を繰り広げていたことを思い返せば、やはり国力低下は事実であり、隔世の感がある。

このニュースをどう捉えるかは政治・外交的に考えた場合、評価は変わるのかもしれないが、日本経済の現状分析という観点からは悲観的な色合いを含むように思える。

唐鎌 大輔 みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト

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からかま・だいすけ / Daisuke Karakama

2004年慶応義塾大学卒業後、日本貿易振興機構(JETRO)入構。日本経済研究センターを経て欧州委員会経済金融総局(ベルギー)に出向し、「EU経済見通し」の作成やユーロ導入10周年記念論文の執筆などに携わった。2008年10月から、みずほコーポレート銀行(現・みずほ銀行)で為替市場を中心とする経済・金融分析を担当。著書に『欧州リスク―日本化・円化・日銀化』(2014年、東洋経済新報社)、『ECB 欧州中央銀行:組織、戦略から銀行監督まで』(2017年、東洋経済新報社)。

※東洋経済オンラインのコラムはあくまでも筆者の見解であり、所属組織とは無関係です。

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