アップル、約50万円「超ハイテクゴーグル」の正体 5000を超す特許を詰め込んだテクノロジーの塊

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もう1つは、より汎用的な活用を行おうとしている点だ。

ゲームや映像視聴だけでなく、オフィスや遠隔での仕事にも活用するシーンを強く押し出したことによって、用途を特定せず、幅広い範囲での活用を目指している点が色濃く出てくる。視線と手の動きだけで操作でき、特別なコントローラーを必要としていない点も、より手軽な活用を可能にしている。

その一方で、専用チップを組み込んでまで、遅延の少なさや反応速度の速さにこだわっている点は、ヘッドセット型デバイスに時折生じる「酔い」を低減するための技術であり、できるだけ多くの人が、できるだけ多くの用途で利用できるようにすることを目指している点が指摘できる。

高すぎる価格がハードルに

汎用性を高め、ヘッドセットを利用するユーザー層をより拡大しようとしているApple Vision Pro。製品の普及サイクルのなかで、とりあえず飛びつくイノベーター、アーリーアダプターの先にある断絶(キャズム)を超えて、マジョリティへと普及していくかどうか。

そこで大きな問題となるのが、3499ドル(日本円で約49万円)という高すぎる価格だ。5000件の特許を伴って開発されたというほど、研究開発に時間とお金をかけているし、ディスプレー技術もチップも新しいものを用いている。

基調講演ビデオの中でティム・クックCEOはApple Vision Proを「Macがパーソナルコンピューティングを、iPhoneがモバイルコンピューティングをもたらしたように、Apple Vision Proは空間コンピューティングをもたらします」と紹介した(筆者撮影)

しかしながら、向上する生産性やコミュニケーション、ゲームなどの体験が、49万円という金額に見合うかどうか。今のところ、それを判断できる材料も、経験も乏しいのが実際のところだ。未来は存分に感じられるが、今現在の強烈な「必然性」を物語るわけではないからだ。

例えば、どこにでも持ち運べる超巨大映画スクリーン、3D再現写真や3D再現ビデオが撮影できるカメラ、ポシェットに入る3枚分の高解像度外付けディスプレーと考えると、納得できる人も出てくるかもしれない。

今後、価格が低下していくこと、そしてさまざまなアプリが空間コンピューターに対応していくことで、あるタイミングで「あってしかるべき」「当たり前」になることは、十分予測できる。また「当たり前」になることを加速させるキラーアプリケーションの登場については、WWDCの主役であるアプリ開発者の手に委ねられている。

松村 太郎 ジャーナリスト

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まつむら たろう / Taro Matsumura

1980年生まれ。慶應義塾大学政策・メディア研究科卒。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)、キャスタリア株式会社取締役研究責任者、ビジネス・ブレークスルー大学講師。著書に『LinkedInスタートブック』(日経BP)、『スマートフォン新時代』(NTT出版)、監訳に『「ソーシャルラーニング」入門』(日経BP)など。

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