JR「リニア高架橋」山梨で進捗、どうする静岡? 川勝知事「珍説明」で時間稼ぎの間に他県は先行

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仮設の階段を登って、高架橋の上部にたどり着いた。品川方と名古屋方の間にはわずかだが勾配がある。およそ25パーミル。1000mごとに25mの高低差があることを意味する。列車は勾配がきついと車輪が空回りして登れない。「25パーミルは東海道新幹線の限界だが、車輪ではなく浮上して走行するリニアなら、この程度の勾配は問題なく走行できる」と、JR東海の担当者が教えてくれた。

高さ21mの眺望を遮るものは周囲になく、甲府盆地の遠くまで一望できる。名古屋方面にある山裾には建設中の第一南巨摩トンネルが見えた。周囲には住居や田畑、空き地が広がる。

それにしてもなぜ、ここだけポツンと高架橋が作られたのか。JR東海山梨東工事事務所の中川隆広所長に聞いてみたら、「理由は2つある。まず、この周辺ではこの場所が最初に更地になったこと、2つ目は、この場所でとりあえずすべて完成させて、建設に関する知見を得たい」とのことだった。

もともとこの場所には町民体育館や児童センターがあったが、「いち早く更地にしてもらったことで、ヤードが確保できた」。また、工事に携わる作業員はベテランだけではない。若手に実際に工事に携わってもらい、経験を積んでそれをほかの現場で役立ててもらいたいのだという。

「急いで施工するのは得策でない」

この高架橋が完成した後は、準備が整った場所から同様の工事に入る。ルート上には更地になっている場所もあれば、まだ住居が残る場所もある。JR東海によれば、「品川―名古屋間全体で用地取得率は契約ベースで65%から69.9%の間といったところ。契約はまだだが合意を得ているものも合わせれば取得率はずっと多い」という。

報道陣から「静岡工区は2027年までに完了しないというが、このエリアの工区は2027年のスケジュールどおりに完成するのか」という質問が出た。中川所長は「2027年の開業は難しくても、それに向けてペースを落とさず頑張っている」と力を込めた。

もともと、2027年に向けた工事は決して余裕をもったスケジュールではなかった。通常の工事よりもコストをかけて多くの人員や機材を投入して2027年開業に間に合わせるつもりだった。しかし、静岡工区が完成しなければ、ほかの工区2027年までに完成しても開業はできない。

JR東海でリニアを担当する宇野護副社長は「南アルプス以外の工区もスケジュールはタイトで、スケジュールどおりに行うとコストがかさむ。急いで施工するのは得策ではない」として、静岡工区の着工・完成時期をにらみながら、ほかの工区の完成を遅らせる可能性があることを示唆している。経済合理性を考えれば当然だ。川勝知事は「静岡のせいで2027年に開業できないのではなく、他県でも工事が遅れている」と強弁するが、他県の工事の遅れが遅れるとしたら、静岡県がその原因を作っていることになる。

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