過食、喫煙の悪習慣をやめたい人に伝えたい真実 自己啓発のアドバイスに従ってもまず解決しない

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報酬系を活性化するドーパミンなどの快楽物質が脳に押し寄せることから、習慣はときに依存症へと姿を変えることがある。報酬系は、その習慣を欲し、実行する神経回路を強化する。そして、学習や記憶にかかわるグルタミン酸と呼ばれる化学物質の分泌を促し、きっかけをつくり、行動に報酬を与える(線条体などの)脳の異なる部分同士の経路を強化する。こうなると、たとえそれが悪いことでも、気分がよくなることをやりたいという気持ちが強くなる。

しかし、すべてが失われたわけではない。たしかに習慣は脳の構造に強く刻まれているが、まだ固定しきってはいない。すっかり定着した習慣を実行しているときでさえ、前頭前野の小さな領域は、万が一別の行動を取らなければならない状況に備えて成り行きを見守っている。普段、車のブレーキはあまり意識していないかもしれないが、ブレーキが利かなくなったら、車を運転するという物理的な行為にすぐさま意識が向くだろう。歯磨き中に歯茎に痛みが走ったら、手を止めて別の行動を取るだろう。どんなに習慣化されていても、脳は柔軟性を維持しているため――やり方さえ知っていれば――書き換えることができるのだ。

習慣にはきっかけがある

では、どうやって? 習慣を変えるためのつぎなるステップは、「習慣は単独で形成されるわけではない」と認識することだ。習慣は、それを実行しやすい環境に関する記憶や情報をともなって、脳内に構築される。つまり、習慣にはきっかけがあるということだ。

ポップコーンを食べるときのことを考えてほしい。映画を観るとき以外に、どうしても食べたいと思うことはあるだろうか? 実験で1週間前のポップコーンを差し出したところ、(味はおいしくないと認めながらも)被験者は会議室より、映画館にいるときのほうがたくさん食べた。この論理はどの習慣にも当てはまる。お酒を飲みながらタバコを吸う人は、パブやバーを目にしただけでタバコが吸いたくなる。

脳は――とくにそれが気分を異常によくしたり、悪くしたりする場合――環境のなかにあるさまざまな手がかりをいともたやすく関連づける。進化の結果、私たちには危機的状況で冒険をしない脳が与えられた。たとえば、私は以前、マシュマロをまるまるひと袋食べた数時間後に急性虫垂炎になったことがあり、以来マシュマロが苦手だ。マシュマロと盲腸は何の関係もないが、脳はこのふたつを強く関連づけているようで、なかなかそれを断ち切れない。脳にとっては、同じことがくり返されるリスクを負うより、マシュマロを避けたほうが安全なのだ。

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