今も残る疑問、制定3年「香川ゲーム条例」のその後 「平日1日60分」の目安設定、なぜゲームが狙われた?

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ゲームの時間制限は、依存の防止に効果があるのか。条例のポイントはその点にあったが、医療などの専門家は条例の制定時から「依存防止との因果関係が証明されていない」と指摘。1日60分などの制限を示した条例が本当に依存当事者を救うのか、疑問視されていた。

「この疑問は今も解消されていません」と山下記者は言い、三光病院(高松市)での取材を例に挙げた。

この病院はアルコールや薬物、ギャンブルなどの依存症治療に取り組んでおり、2018年にはネット・ゲーム依存専門の「こども外来」を開設。中学生や高校生を中心に50人ほどが通院している。

「高校2年の男子生徒は小学校6年のとき、担任との折り合いが悪くなり、不登校になりました。『右へならえ』的な学校の雰囲気が合わなかったと母親は言います。中学生になっても学校に通えず、自宅で大半の時間を過ごすようになった。そしてゲームにのめり込んだのです。多い日は1日10時間以上。本人は『ほかにすることもなかったから』と」(山下記者)

ゲーム依存で苦しむ当事者や保護者には意味をなさない

山下記者の取材によると、当事者の多くはゲーム依存になる前に、学校生活でのつまずきがあった。ゲームにのめり込んで生活が壊れたのではなく、壊れかけた生活とのバランスを取るためゲームを使っているうち、ゲームの比重がどんどん高まっていくのだ。

条例は、そうした家庭に「1日60分を目安としたルール」を作って守らせることを求めるものだが、当事者の母親らは「機器を取り上げるなど強く出たら、激しく反発され、家庭内紛争になってしまう」と打ち明けた。

つまり、ゲーム依存で苦しんでいる当事者や保護者には、あまり意味を成さない内容なのだ。中には「あの条例は学力を伸ばすためのものですよね? 県は、ゲーム時間とテストの正答率のグラフなどを出して……」と語る学生もいたという。

「ゲーム依存症対策を掲げたこの条例は、課金が数十万円レベルの高額になったとか、昼夜逆転から抜け出せないとか、本当に深刻な事態に陥っている家庭には届いていないと思います。それどころか、乳幼児期からの対応を強調する条文は、逆に親を責め、追い込んでいるのではないかと思います」(山下記者)

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