バルミューダ、スマホ事業「スピード撤退」の凄さ わずか1年半で撤退も、素早い決断は手本のようだ

✎ 1〜 ✎ 74 ✎ 75 ✎ 76 ✎ 最新
拡大
縮小

実際にバルミューダは家電とスマホの組み合わせで勝負を挑んだが、人びとに訴求するにいたらなかった。

さらにアプリの良さも伝わっていたかというと心もとない。ソフトウェアの開発は大規模化しており、アップル、サムスン、シャオミ、ファーウェイなど少数のベンダーがひしめく。

このレッドオーシャン化する事業環境のなかで、相対的に小さな企業が闘いを挑むのは、かなり困難がつきまとっただろう。

バルミューダのこれから

ところで、私はバルミューダがスマホを発表した際、それを取り上げた番組でコメンテーターをしていた。もちろんメディアは好意的に取り上げる。なかなか厳しい道だろうと思った私は、しかしお手並み拝見という表現でコメントした。

実際に、私はこのバルミューダの携帯端末事業撤退を悪くは考えていない。彼らは東証グロース市場に上場している大企業である。いったん、事業に参入してダラダラとキャッシュを垂れ流す企業が多い中で、なんという早い決断だろうか。ダメだったらすぐに撤退。そして違う事業にリソースを振り分ける。これで、事業失敗の経験を得る。これは皮肉ではなく企業の手本ではないか。

決算説明会のなかで、「躊躇せずチャレンジしたこと自体は良いことだった」「大いなる夢と希望を持って飛び込んだ」「仮に数年前にもう一度戻っても、躊躇なく携帯端末事業に参入する」と述べている。

私が最も驚いたのは「携帯端末事業に再参入する可能性」を問われた同社が完全否定するかと思いきや「慎重に検討します」と答えている点だ。

そもそも読者が勤める企業でも、新規事業は数あるだろうが、成功するのは一握りだ。ほとんど失敗する。ハード事業はなおさらだ。株主でもない以上、未知の領域に挑戦した企業は責めるべきではない。

携帯端末事業は残念だったが、これからも同社の未知なる挑戦を応援したい。

坂口 孝則 調達・購買業務コンサルタント、講演家

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

さかぐち たかのり / Takanori Sakaguchi

大阪大学経済学部卒業後、電機メーカー、自動車メーカーで調達・購買業務に従事。現在は未来調達研究所株式会社取締役。調達・購買業務コンサルタント、研修講師、講演家。製品原価・コスト分野の専門家。著作26冊。「ほんとうの調達・購買・資材理論」主宰。日本テレビ「スッキリ!!」等コメンテーター。

この著者の記事一覧はこちら
関連記事
トピックボードAD
ビジネスの人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT