イオンが首都圏スーパーを次々に「呑み込む」事情 いなげやを連結子会社にするに至った背景

拡大
縮小

いなげや統合の理由を、トップバリュの規模拡大、と解説する報道は多い。それはそうなのだが、首都圏に限った話ではないだろう。市場規模が保たれる首都圏において、今後、センター供給型の食品スーパー網を再構築するにあたっては、物流効率、生産コントロールのためにも密集したドミナントを事前に構築しておく必要があるからなのだ。

そのためにも、首都圏で相応の規模があり、しかし単独では手詰まりな企業を仲間に入れていく。並行してトップバリュの価格据え置きを継続することで、販売強化、ブランド強化に努めていると解釈すれば、つじつまが合うではないか。

首都圏がセンター型スーパーの実験場に

首都圏と言えば、セブン&アイのスーパーストア事業も首都圏で食品に特化するという。イトーヨーカ堂、ヨークを再編統合して、新たに「SIPストア」という500㎡店舗をヨーカ堂、ヨークの店舗の合間にドミナント出店していく計画が公表されている。

この「SIPストア」もまさにセンター供給型スーパーであり、供給拠点であるプロセスセンターがすでに稼働しつつある。セブンは3年で成長戦略を再構築して、スーパーストア事業の上場を視野に入れている、と共同通信のインタビューで明らかにしている。首都圏は3年以内にイオンVSセブンの新たなセンター型スーパーが激突する実験場になる。

これは首都圏以外のスーパーにとっても「対岸の火事」ではない。センター型スーパーが成立することが証明された時点で、これまでの業界構造は一変する。物流やセンターへの投資余力が大きいものが高い競争力を持つことになるため、寡占化が一気に加速することになるからだ。

業界各社はそうした前提の下、自社の生き残り策を再構築していく必要がある。猶予は3年、というのはイトーヨーカ堂に残された時間ではなく、業界構造が変わるまでのカウントダウンであるということを、改めて認識しておく必要があるだろう。

中井 彰人 流通アナリスト

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なかい あきひと / Akihito Nakai

みずほ銀行産業調査部で小売・流通アナリストに12年間従事。2016年同行を退職後、中小企業診断士として独立、開業。同時に、慶應藤沢イノベーションビレッジでベンチャー支援活動を開始、近年は地方創生支援活動も実施中。並行して、流通関連での執筆活動を本格化し、TV出演、新聞、雑誌などへの寄稿、講演活動などを実施中。2020年よりYahoo!ニュース公式コメンテーター、2022年Yahoo!ニュースオーサーを兼務。主な著書「図解即戦力 小売業界」(技術評論社)。現在、東洋経済オンライン、ダイヤモンドDCSオンライン、ITmediaビジネスオンライン、ビジネス+ITなどで執筆、連載中。

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