英国王の戴冠式、ロンドン地下鉄の「粋なお祝い」 80年前の旧型電車で「1953年」にタイムスリップ

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LTMは今回のチケットをオンラインで販売したが、発行されたのはQRコードのみ。乗車前に硬券の記念乗車券か何かをくれるのかと期待したものの、「スマホの画面を見せれば乗れます」と言われやや興醒めした。それでも、参加者には1953年の女王戴冠式の際に一般市民に配られたリーフレットの復刻版が配布され、興味深く目を通す人々の姿が目についた。

また、車内にはこの車両の現役末期である1988年当時の広告が取り付けられたままで、車両全体が歴史資料のようだ。固定電話や今は現存しない航空会社の案内、はたまた英国国鉄の特急「インターシティ125」のビュッフェの広告などもあった。

1938形 車内広告
車内には現役時代末期の1988年の広告や路線図が残る(筆者撮影)

筆者は1980年代後半にロンドンで生活していたことがあり、当時の住まいと市内中心部を結ぶノーザン線で同型の車両に乗る機会が時折あった。車内に貼られていた古い図案のノーザン線路線図を見て、ひと気のない終電でこの車両に乗り合わせ、どこに連れて行かれるのだろうかと不安になったことを思い出した。まるでタイムスリップしたような感覚を体験できた。

次はどんな理由で走らせる?

今回のイベントでの走行区間は「地下鉄」車両でありながら地上区間のみだった。地下区間で万一予期せぬ停止などあった時の混乱を考えるとやむをえない判断なのかもしれない。とはいえ、走りっぷりは全く順調で、製造後85年を経た車両とは感じられなかった。

ただ、常に遅れなどでダイヤが混乱しているピカデリー線にイベント列車を走らせるのは大変そうだ。出発は遅れ、臨時停車を繰り返し……と、全く予定通りに走れないのがいかにもロンドンらしかった。

LTMの関係者によると、この車両を使った走行イベントはこれからも年に数回実施したいという。古い車両を本線上で走らせるには、多数の技術スタッフやボランティアの支えが必要となる。今回は「戴冠式」という歴史的な出来事を記念したイベントという形だったが、次はどんな「理由」を付けて走らせることになるだろうか。今後も貴重な車両が本線上を走ることを期待したい。

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さかい もとみ 在英ジャーナリスト

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Motomi Sakai

旅行会社勤務ののち、15年間にわたる香港在住中にライター兼編集者に転向。2008年から経済・企業情報の配信サービスを行うNNAロンドンを拠点に勤務。2014年秋にフリージャーナリストに。旅に欠かせない公共交通に関するテーマや、訪日外国人観光に関するトピックに注目する一方、英国で開催された五輪やラグビーW杯での経験を生かし、日本に向けた提言等を発信している。著書に『中国人観光客 おもてなしの鉄則』(アスク出版)など。問い合わせ先は、jiujing@nifty.com

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