「月収10万円」都内で一人暮らし続ける女性の苦境 食事はフードバンク頼り、娯楽はテレビだけ

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上京してから派遣やパートなど、非正規雇用で働き続けた。男性上司によるパワハラ、セクハラが日常で健康を何度も壊した。20回以上の転職を繰り返した。

5年前、あまりに仕事と人間関係がうまくいかないので診察を受けた。

「発達障害と診断されました。障害者枠で現在の仕事に落ち着いていますが健常者雇用と違い、賃金は低く設定されているようです。男性上司や同僚とかかわることのない、望んでいた仕事だったけど、年収は100万円台前半まで下がりました」

年収100万円台前半で、都内で一人暮らしするのは難しい。コロナ禍に新設された住居確保給付金や、僅かな預貯金を取り崩して綱渡りのような生活を続けている。

現状維持の貧困を続けるか、生活保護か

「住居確保給付金って家賃補助をもらって助かりました。でも9カ月間で終わってしまった。あなたにはもう支払ったので、これ以上は出せませんって言われた。公営住宅に申し込んでいますが子どもがいないので優遇がなく、何年も抽選で落とされて入居はかないません。自治体に生活面の相談をしたところ、生活保護を勧められました」

雅美さんは受給しようと思えばできる状態だったが、実家に連絡がいく、手続きに時間がかかるなどの理由で保護は受けていない。田舎では生活保護のイメージは悪く、家族は受給を許さないで田舎に帰るように言うだろう。それだけはさけたかった。

「東京の生活は誰にも干渉されないので、すごくラクです。孤独とか低賃金で悩んだことはあったし考えたけど、もう30年間も同じ状態なので考えてもしょうがないかなって諦めました。自分ではどうにもできない。なにをしても貧困から抜けだすことができないのはわかっているので、東京で生活保護を受けることも考えます」

雅美さんは取材が終わった後、調査会社が行うアンケートに協力する予定で、週末にはフードバンクで食料を受け取る。フードバンクでは缶詰やレトルト食品がもらえる。それらを食べて、なんとか今月を乗り切る予定だという。

働いてもなにも買えない、食べることすらできない厳しい現状――。51歳になった雅美さんの選択肢は現状維持の貧困を続けるか、生活保護かしか残されていなかった。

本連載では貧困や生活苦でお悩みの方からの情報をお待ちしております(詳細は個別に取材させていただきます)。こちらのフォームにご記入ください。(外部配信先では問い合わせフォームに入れない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でご確認ください)
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中村 淳彦 ノンフィクションライター

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なかむら あつひこ / Atsuhiko Nakamura

貧困や介護、AV女優や風俗など、社会問題をフィールドワークに取材・執筆を続けるノンフィクションライター。現実を可視化するために、貧困、虐待、精神疾患、借金、自傷、人身売買など、さまざまな過酷な話に、ひたすら耳を傾け続けてつづけている。著書に『東京貧困女子。』(東洋経済新報社)、『崩壊する介護現場』(ベストセラーズ)、『日本の風俗嬢』(新潮社)、『名前のない女たち』シリーズ(宝島社)など多数。Twitterアカウント「@atu_nakamura」

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