「娘が鉛のように重い」母がもうダメと悟った瞬間 「不登校の初期」に親ができることとは何か

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ところが、この時期は子どもと同様、親も不安だらけですから何かをせずにはいられません。不安から親が発するメッセージは、傷ついた子どもには「あなたがこんな状態だと私は困っちゃうのよ」というふうに届きます。

「そんなつもりじゃないのに……」と思っても、子どもがそう受けとればそういう意味になります。たとえ口に出さなくても、子どもは親の胸の奥にある感情に反応して、「責められている」「批判されている」と感じてしまうのです。

その子が静かに穏やかに過ごせるように

この時期、親にできることは、とにかく刺激をしないこと、食事や睡眠など衣食住の面で快適な環境を整えることです。そうして、子どもが静かに穏やかに過ごせるよう心がけ、回復を待ってください。

よく知られる心理学の考え方に「マズローの欲求5段階説」というものがあります。

おおまかに説明すると、人の欲求には、①生理的欲求→②安全・安心の欲求→③社会的欲求(所属したい・愛されたい)→④尊厳(承認)の欲求→⑤自己実現の欲求、という5段階の欲求があって、それぞれの欲求は下の段階が満たされてはじめて、その上の段階の欲求が出てくることをあらわしています。

「学校に戻りたい」という社会的欲求が出てくるためには、その下の「生理的欲求」や「安全・安心の欲求」を満たしてあげないといけない。そこが満たされることで、次の段階、「学校という集団に入っていきたい」という欲求が芽生えてくるわけです。

「甘やかしてはいけない」「厳しくしないとズルズルと休みが長引く」と考える親がいますが、逆に、長引かせないためにも休養が第1であることが、マズローの欲求5段階説からも理解できるのではないでしょうか。

本人が何も話さず返事もしないので、親のほうも話しかける気がなくなりがちですが、朝晩のあいさつをはじめ、返事がなくても声はかけてください。

不安や傷を刺激するような「学校どうするの?」といったことはできるだけ口にせず、本人と直接関係のない話題(天気の話、テレビ番組やペットの話など)を楽しそうに話すようにしましょう。子どもはほうっておかれたらやはり寂しいわけで、声をかけることで「あなたのことを気にしているよ」というメッセージが伝わります。

おそるおそる話しかけたり、こわごわ体に触ったりしないことも大事。「おそるおそる」や「こわごわ」は、子どもを怖がっているというメッセージになってしまうので、あっけらかんと「今日は暑くなるみたいよ。熱中症に気をつけなさいね」とポンと肩に触れるとか、そんな感じで接してほしいと思います。

衣食住についても、「あなたの体のことを心配しているよ」というメッセージを伝えましょう。

食事は本人があまり食べなくてもできる範囲で用意する、快適に眠れるようにシーツなどを清潔に保つ、お風呂に入るときは「リラックス効果があるらしいよ」と入浴剤を渡すなど、言葉ではなく行為で気づかいを示します。ある程度安定してきて、本人が嫌がらなければ外出に誘うのもいいですね。

この時期、うつ病の薬(抑うつ薬)をのむと元気が出るんじゃないかと考えたりするかもしれませんが、心の傷が回復していない状況で抑うつ薬をのんでも間題は解決しません。「病院のお薬をのんでもぜんぜんよくなりません」という訴えを耳にすることも多いので、この点も頭に入れておいてください。

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