トヨタ、佐藤社長が示した「EV巻き返し」の針路 2025年までに海外で現地生産EVを計3車種投入

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またトヨタ幹部らによると、トヨタでは初となるEV専用のプラットフォーム(車台)の開発を進めているという。構成部品をEVファーストで見直し、開発や生産での効率を大幅に高めることを狙う。

説明会では中嶋裕樹副社長が、「電池を効率よく使って、航続距離を2倍にし、心揺さぶる走りとデザインを兼ね備えた次世代バッテリーEV」を26年に投入すると明言。このEVに新プラットフォームが適用される可能性が高い。

もっとも、EV戦略の肝のいくつかは依然として見えてこない。例えばEVの競争力を左右するとされるソフトウェア。さまざまなソフトの基盤となる車載OS(基本ソフト)「アリーン」は25年に投入予定だが進捗は明らかにされなかった。EV工場の場所や規模、電池の調達についても具体的な内容はなかった。

このため、部品メーカーからは「EVを計画どおり急激に増産することが本当に可能なのか」と懐疑的な声も上がる。計画実現には部品メーカーの協力が不可欠なだけに、彼らが納得して投資できる計画を早期に示せるかが焦点になる。

HVの利益をEVの成長投資に向ける

もう1つ、EVを手がけるメーカーに共通した悩みがある。希少金属を使用する大容量電池のコストが重いため、既存自動車メーカーはもちろん、新興のEV専業メーカーも大半がEVの収益確保に苦しむ。フォードはEV事業で30億ドル(約3900億円)の赤字見通しを公表している。

その中でも先行するテスラは22年に営業利益率16.8%をたたき出した。収益面の余裕からEVの値下げも機動的に実行。3月には数年以内に低価格の小型EVを投入すると発表した。新設するメキシコ工場で新たな生産方式を導入し、生産コストを半減させる。

EV販売を拡大しつつ利益を稼げるようになるのはトヨタといえども容易ではない。そこでトヨタが頼みとするのが得意のハイブリッド車(HV)である。

今回、トヨタはHVの収益性に関するデータを初めて公表した。初代プリウスから現行の5代目までに原価を6分の1に削減しており、北米のスポーツ用多目的車(SUV)タイプでは1台当たりの利益でHVがガソリン車を上回るまでになったという。

同時に示された事業成長の予想図では、現状並みの1000万台規模の販売台数を維持したうえで、新興国でHVの販売台数を大幅に引き上げる計画となっている。HVで稼いだ利益をEVへの成長投資に振り向ける。EVだけでなく、HVも重視する──トヨタの「全方位戦略」を佐藤社長も“継承”する理由だ。

横山 隼也 東洋経済 記者

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よこやま じゅんや / Junya Yokoyama

報道部で、トヨタ自動車やホンダなど自動車業界を担当。地方紙などを経て、2020年9月に東洋経済新報社入社。好きなものは、サッカー、サウナ、ビール(大手もクラフトも)。1991年生まれ。

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