日米の株価はやっぱり年央にかけて下落しそうだ ただし「暴落パニック」が起きる可能性は低い

拡大
縮小

一方、コロナ禍については、未知の病原菌の感染拡大であったため、それがどの程度の行動制約をどのくらいの期間生じ、どの程度景気が傷めつけられるかわからなかったことが、株価の大きな下振れを引き起こした。

しかし、現在はそうではない。「中央銀行の引き締めで景気が悪化している」という事実が明確で、不透明感は薄い。株価暴落を懸念しなければいけないような事態ではない。

「日本発の不安要因」は見当たりにくい

ここで目を日本に向けると、日本発での「世界経済を悪化させるような要因」は見いだしにくい。むしろ足元では、海外観光客のインバウンド消費増や、全国旅行支援などによる国内観光客の増加などが、好材料として期待される。

加えて3~4月は、卒業式や入学式といったイベントに望むため、婦人服の売り上げがよかったようだ。通常の家庭内の消費の優先順位は、母親→子供→ペット→父親といったものなので、紳士服の売り上げが大きく回復するのはまだ先だろうが、婦人服の持ち直しは早期に表れる明るいサインだといえる。

しかし残念ながら、海外主要国の経済が前述のように悪化すれば、それは日本からの輸出を減少させるだろう。日本の輸出数量指数の前年同月比を見ると、コロナ禍からの持ち直しのあとでは、2021年10月にマイナスに転じ、その後しばらくはプラスマイナスゼロ近辺を上下動して粘っていた。

しかし、とうとう2022年9月のプラスを最後に、それ以降前年同月比はマイナスを継続し、今年1、2月は10%前後の減少となっている。海外景気の悪化は外貨安・円高も引き起こしうるため、日本の輸出製造業には打撃になるだろう。

株価も、筆者が懸念しているように海外主要国で下落が進むと、グローバルな投資家が株式投資のさらなる損失を恐れ、別に日本発の悪材料が発生しているわけでもないのに、日本株も含めて株式の保有資産割合を低減させるおそれが生じる。

このため「年央あたりが主要国の安値のタイミングになるのでは」と見込んでおり、現在よりも日米などの株価指数は1割強ほど下落すると予想する(逆に言えば、2割、3割といった厳しい下落は想定していない)。

具体的に言えば、日経平均株価の安値は2万4000円程度、ニューヨークダウは3万ドル程度の安値の想定で、この予想値はここ数カ月まったく変えていない。

(当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)

馬渕 治好 ブーケ・ド・フルーレット代表、米国CFA協会認定証券アナリスト

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まぶち はるよし / Haruyoshi Mabuchi

1981年東京大学理学部数学科卒、1988年米国マサチューセッツ工科大学経営科学大学院(MIT Sloan School of Management)修士課程修了。(旧)日興証券グループで、主に調査部門を歴任。2004年8月~2008年12月は、日興コーディアル証券国際市場分析部長を務めた。2009年1月に独立、現在ブーケ・ド・フルーレット代表。内外諸国の経済・政治・投資家動向を踏まえ、株式、債券、為替、主要な商品市場の分析を行う。データや裏付け取材に基づく分析内容を、投資初心者にもわかりやすく解説することで定評がある。各地での講演や、マスコミ出演、新聞・雑誌等への寄稿も多い。著作に『投資の鉄人』(共著、日本経済新聞出版社)や『株への投資力を鍛える』(東洋経済新報社)『ゼロからわかる 時事問題とマーケットの深い関係』(金融財政事情研究会)、『勝率9割の投資セオリーは存在するか』(東洋経済新報社)などがある。有料メールマガジン 馬渕治好の週刊「世界経済・市場花だより」なども刊行中。

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