ウクライナ戦争を止められない政治家の本質 選挙で政治家を選ぶだけが民主主義ではない理由

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ベルトンはまずこの2冊を紹介しながら、政治家が犯罪的性格を持っていたらどうなるかについて語る。

スタニスラ・ベルトン『人間と都市』

最初の本は中国人が書いた書物で、タイトルの上に「アメリカよ、目を覚ませ!」とある。これはアメリカへの警告の書である。なぜ警告か。それは中国とアメリカとの戦争は、単に軍事力や経済力といった分野に限らず、あらゆる分野にわたり、そこには西欧文明に対する仁義なき戦いがあるからだ。

無制限の戦争とは総力戦以上の意味を持つ。それは、戦争それ自体が目標ではなく、戦争によって巨大な覇権を完成することが目標だからである。

なるほど、中国とアメリカとの覇権争いは単にどちらが勝利するかという問題ではない。200年の西欧による世界制覇に対する中国の巻き返しの様相を含んでいる。だからこそ、それが軍事や経済のみならず、文化や教育などあらゆる分野に及ぶのは当然だ。

19世紀からの西欧による世界制覇は、経済力だけではなく文化、芸術、歴史を含めた人類史の書き換えであった。それを今は中国がやろうとしているのだから、「アメリカ、いや西欧よ、目を覚ませ」というのも、わかる。もっとも、1980年代にアメリカの日本に対する態度もそうした危機意識があったのだが、こと中国は18世紀まで世界の覇権国であったのだから、意味するところは大きい。

政権を取る悪魔的性格を持った人間

2冊目の『政治的悪の心理学』の著者は、スターリン時代に大学で心理学を学んだ。マルクス主義や共産主義には、スターリン体制という大きなトゲが刺さっている。共産主義がスターリン主義を必然化するとすれば、その思想自体が問われねばならない。

スターリン批判を受けた筆者のような世代は、ヘルベルト・マルクーゼ、エーリッヒ・フロム、テオドール・アドルノなどの本を読み、「権威主義的人間」とマルクス主義との相違を探求したものだ。

『超限戦』(原題;Unrestricted Warfare)

ポーランドのロバチェフスキーは、大学時代に党の幹部が突然来て、若い学生に対し新しい社会体制をオルグ(組織への勧誘行為)し始めたことに気づく。そしてこうした役割を担った党の幹部の多くが、十分な学習の基にオルグしているのではなく、一種の復讐のようなルサンチマンに駆られて生半可な知識でオルグしていることに気づく。

そしてロバチェフスキーは、密かに悪魔的性格を持った人間が政権を取るとどんな行動を取るかを、心理学者として社会主義政権下で秘密裏に研究し始める。その成果がこの書物なのだ。

次ページ今の戦争は権力に飢えた政治家による覇権戦争だ
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