青い森鉄道が示すローカル線「上下分離」の光と影 最長の並行在来線、中心市街地との連携不可欠

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上下分離を採用しても、経営的には苦境が続いた。同社の資料によると、2003年度の輸送人員は83万8000人にとどまった。3億8000万円余りの旅客運輸収入のうち、青い森鉄道を通過するJRの寝台特急「北斗星」「カシオペア」による収入が1億9000万円を占めていた。

その後も、JRの企画切符の売れ行きが伸びる反面、2008年には「北斗星」の減便によって寝台列車からの収入が落ち込むなど、経営は安定しなかった。県に支払う約2億7000万円の線路使用料を減免されても、赤字決算が続いた。

2010年12月4日、東北新幹線全線開通・新青森開業に伴い、青森県内から東北本線が消滅した。代わって青い森鉄道が目時―青森間の全線開通を迎えた。営業距離は一気に5倍近くに延び、旅客運輸収入は18億円台に、輸送人員は約400万人に増えた。全線開通から間もない2011年3月には東日本大震災が襲い、列車運行も経営も大きなダメージを受けた。それを克服し、やがて駅の移転や新駅設置、企画切符の販売などによって経営状況は好転した。2014年度の旅客運輸収入は約20億円に達した。それでも、県に支払う5億~6億円規模の線路使用料の大半について、減免を受けざるをえない状況が続いた。

大きな転機をもたらしたのは2016年3月の北海道新幹線開業だった。青函トンネルは北海道新幹線と在来線の共用となり、電圧などが新幹線規格に対応した専用の機関車が導入された。これが一因となり、青い森鉄道を走る寝台列車が廃止された。

一方で、青函トンネルを走行するJR貨物の列車は、青い森鉄道の施設で機関車付け替え作業をすることになった。その対価として、青い森鉄道は国から約6億円の支援を受けられるようになった。

結果的に、2017年度と2018年度は念願の線路使用料の全額支払いにこぎ着けたうえ、7000万円近い黒字を計上した。開業以来初めて、青い森鉄道は完全に「自走」し始めた。

コロナ禍で暗転

だが……2019年末からコロナ禍が世界を覆い、人の動きが止まった。沿線の学校は断続的に一斉休校となり、通勤客も激減した。2012年度以降、2200~2400人台で安定していた1日・1km当たりの輸送密度は、2020年、2021年度と1600人台まで目減りした。

2019年度は黒字決算だったものの線路使用料を全額は支払えず、2020年度は線路使用料の全額減免を受けても赤字決算を余儀なくされた。2022年度の旅客運輸収入はようやく復調に向かっているが、まだコロナ禍前の水準には戻りきっていない。

同社は3月22日に開いた取締役会後の記者会見で、2022年度の線路使用料見込み額について、5億7420万円のうち3億5136万円、およそ6割の減免措置を受ける方針を明らかにした。旅客運輸収入が回復する一方、電気代の値上げが大きく響いたという。

増収を図る同社の取り組みを眺めると、他の並行在来線と比べて目立つのがオリジナル・グッズのバリエーションだ。イメージキャラクターの「モーリー」をあしらった文房具やハンカチ、縫いぐるみをはじめ、実に32点が販売されている。青森駅、八戸駅など6駅にはグッズの自動販売機を設置。2022年からは正月の福袋も売り出した。

「2021年4月に事業推進課を設置し、自主事業などの強化、新たな収益確保策の検討、沿線地域などとの連携に重点的に取り組んできた」と、同社は背景を解説する。とくに「モーリー」は車体にも大きく描かれ、並行在来線のキャラクターの中では存在感が際立つ。全線開通に先駆けて2009年に誕生した。やがて「モーリーあての年賀状」が届き始め、今年の正月には380枚に達したという。人気者のモーリーを「今後もさまざまな場面で活用していきたい」と同社の広報担当者は意気込む。

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