「タモリ倶楽部」が40年も視聴者に愛された理由 「番組には"2人のタモリ"がいた」終了は大損失

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いま『タモリ倶楽部』は何をやる番組かと尋ねたら、「鉄道企画」をやる番組と答えるひとが結構多いのではないだろうか? タモリを始めとした「タモリ電車クラブ」のメンバーが集まってうんちくを傾け合い、ロケに出てはレアな電車体験に目を輝かせる。いまやおなじみの光景だ。

つい最近の放送でも、JR東海の全面協力のもと、めったに遭遇しないとされる点検専用車両「ドクターイエロー」に初乗車するという夢の企画が実現し、タモリらメンバーは念願がかない実にうれしそうだった(2023年2月24日、3月3日放送)。

ほかにも、地図というだけならまだしも、自分の想像で作る「架空地図」マニアの作品を鑑賞するなど、超マニアックとしか言いようがない切り口はまさにこの番組ならではだ。

民族音楽など、ほかのテレビではあまり取り上げないような分野に光を当てる音楽系の企画もそうだろう。いまはやりの「昭和歌謡」も、近田春夫や半田健人らを迎え、世にだいぶ先駆けてそのディープな魅力に注目していた印象がある。

つまり、生半可な知識ではついていけないような趣味の深掘り企画をやる番組というのが『タモリ倶楽部』である。もちろんつねにその中心にいるのはタモリで、いちおう司会ではあるが、そちらは大体芸人などゲストに任せて自分はひたすら興味の赴くままに楽しんでいる。

そこには、タモリの多趣味で博識な部分がベースにある。世間も、「タモリ=博識な趣味人」というイメージは強いのではないかと思う。タモリが毎回、古地図を片手に街を歩きながらその風土や歴史を掘り下げる『ブラタモリ』(NHK)は2008年にスタートしているが、この番組もある意味『タモリ倶楽部』から“派生”したといえる面がある。

いまは「推し活」の浸透を思い出すまでもなく、オタク化が進む時代。趣味人としてのタモリは、そうした現代において「憧れの人物」のポジションにある。それもいまのような時代になるだいぶん前からの筋金入りであったことが、なおさらそう思わせる。そんなタモリを以前から見せてくれていた『タモリ倶楽部』は、その意味において時代を先取りしていた。

革新的だった「空耳アワー」

とはいえ、『タモリ倶楽部』におけるタモリは、40年ずっと趣味人の顔だけを見せてきたわけではない。あるときまでは、むしろ違っていた。

そもそも『タモリ倶楽部』は、タモリに深夜で遊んでいてもらおうというスタッフの思いから企画された番組だった(『デイリー新潮』2022年12月19日付記事)。

同時にそこでは、お昼の『いいとも!』との対比も意識された。その結果、「恐怖の密室芸人」とも呼ばれたタモリの“毒”の部分が強調されることになる。この場合“毒”とは知的な笑い、具体的にはパロディーやナンセンスの笑いのことである。

実際番組初期は、深夜らしくお色気企画もある一方で、そうした企画が多かった。

例えば、開始当初には「男と女のメロドラマ 愛のさざなみ」というミニドラマのシリーズがあった。

タモリ演じる「義一」と中村れい子演じる「波子」を主人公にしたメロドラマのパロディー。さまざまなシチュエーションで、毎回2人が「運命の再会」を果たすところで終わる。そこから別に話が進むわけではない。ストーリー展開などは無視してメロドラマでありがちな「運命の再会」場面だけを切り取って大げさに誇張したもので、そこにシュールな面白さがあった。

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