すかいらーく発祥「ひばりが丘団地」64年経った今 古い団地とベランダはなぜ「保存」されたのか

拡大
縮小

最終的には、建てかえ事業完成後のUR都市機構が管理する住宅は約1500戸となり、第2期の工事エリアのほとんどはUR都市機構と自治体や民間が連携し、土地の利用を行っていくこととなった。

2008年6月には地区計画が定められ、これまで建て替えられてきたUR都市機構の賃貸住宅だけではなく、民間デベロッパーによる住宅建設や公共施設の整備拡充も含まれたまちづくり計画となった。

ひばりが丘団地の建てかえで、UR都市機構管理の賃貸住宅は東側に29棟約1500戸が建設され、西側には民間デベロッパーによる4棟のマンションと約200戸の戸建て住宅の建設が進められることになる。

ひばりが丘の敷地は一部、このような分譲住宅に変わった(筆者撮影)

一連のまちづくり計画見直しにより、歴史的建造物の保存も企画された。そして、「スターハウス」の旧53号棟が改修のうえ、管理事務所を含んだ建築物としてほぼそのままの姿で残ることになった。併せてひばりが丘団地のイメージの象徴でもある旧74号棟208号室のベランダが隣接して保存されたのである。

写真奥が旧53号棟「スターハウス」。管理事務所などのスペースとして活用している。手前が旧74号棟208号室から移設してきた「ベランダ」で、デッキに隣接して地平に置かれているため、ユニークなたたずまいとなっている(筆者撮影)

取り壊し予定の住棟で「実験」が行われた

また、UR都市機構はひばりが丘の地で新たな団地のイメージづくりに向け、3つのストック住宅の活用を行った。

まず、2008年に行われたのが「ルネッサンス計画Ⅰ」だ。取り壊し予定の住棟3棟のうち1棟をUR都市機構が、2棟を民間企業がリノベーションする実験が計画され、ほぼ同じような住戸は10パターンのリノベーション住戸に変わった。

リノベーションの中ではエレベーターの設置、横並びの2住戸をつなげた1住戸化、上下の住戸をつなげたメゾネットタイプへの改修、梁を削った天井高の見直しといったさまざまな取り組みが行われた。

こうした大胆な取り組みが行われたのは、この3棟はリノベーション後、賃貸や分譲の住宅として提供するわけではなく、取り壊すことが決まっていたからだ。このような大改修については、建築基準法で明確に定められていなかったのである。

リノベーション工事後は耐震や劣化に関する調査データがモニタリングされ、2010年12月まで見学を受け入れたのち、解体工事が行われた。いま現物を見られないのが残念だが、建築基準法の改正など法整備が進めばここで使われた技術やリノベーション後の姿が実現する可能性がある。

資料を見る限り、これまでの団地のイメージを大きく変えるような住戸だったがゆえに、ぜひ日の目をみてほしい。

「ルネッサンス計画Ⅱ」でリノベーションされた旧94号棟。エレベーター取り付けなどバリアフリーのリノベーションを行った。現在は高齢者サービス住宅として、民間事業者が管理運営している(筆者撮影)

「ルネッサンス計画Ⅰ」に続いて進められたのが「ルネッサンス計画Ⅱ」だ。ひばりが丘団地では2012年から取り組みが始まった。先ほどの「ルネッサンス計画Ⅰ」同様の住棟(旧94号棟)に対してリノベーションを行い、今度は実際に住戸として活用することにした。具体的にはバリアフリー化や耐震補強などの改修を行い、サービス付き高齢者向け住宅とし、民間事業者に運営を委託している。

次ページカフェやコミュニティースペースも
関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT