「ルフィ事件」はフィリピンの現地でどう見えるか 犯罪とともにメディアスクラムを輸出した日本

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つまり巨額の援助はいまに始まったわけではない。さらに米中対立の激化に伴いフィリピンの安全保障上の重要性が近年急速に増している事情もある。日米と中国がフィリピンを巡って綱引きをしている状況なのだ。

アメリカのバイデン大統領はマルコス氏が大統領選で当選を決めた2022年5月、他の首脳に先駆けていち早く電話で祝福、同年10月にはニューヨークで会談した。翌11月にはハリス副大統領がフィリピンを訪れ、中国との領有権問題を争う南シナ海の最前線となるパラワン島を訪れ、フィリピンの巡視船に乗って、同盟強化を誓う演説をした。

オースティン国防長官は2023年2月、マニラでマルコス大統領と会談、2014年に締結された比米防衛協力強化協定(EDCA)に基づき、アメリカ軍が使用できる基地を現在の5カ所から9カ所に増やす約束を取り付けた。南シナ海紛争だけではなく台湾有事を見据えた動きだ。

米中対立の狭間のフィリピン

一方、中国の習近平国家主席は2023年1月、マルコス大統領を北京で大歓迎し、253億ドル(約3兆3000億円)に上る投資と援助を約束した。もっとも中国はドゥテルテ前大統領が2016年に初訪中した際には240億ドルの約束をしたものの、結局ほとんど空手形に終わったこともあり、どこまで実行されるかはマルコス政権の出方次第となる。

マルコス大統領は訪日で、日本側の「お土産」が6000億円とすれば、フィリピン側の土産は4人の容疑者だったと見えるかもしれない。そもそもODAは受け取る側だけではなく、出し手の都合も一致してはじめて供与される。今回も日本が一方的に恵んでいるわけではない。安全保障や経済への貢献に加えて、捜査協力などさまざまな思惑が含まれていても不思議はない。

今回の騒動で「フィリピン=危険な国」、あるいは「フィリピン=でたらめな国」といったイメージが増幅・再生産され、日本人の記憶に長く残るであろう。観光や近年急速に伸びていた英語留学、日本企業の進出や投資にも影響を与えることは間違いない。

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