「ルフィ事件」はフィリピンの現地でどう見えるか 犯罪とともにメディアスクラムを輸出した日本

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事件の重要性の判断によって日本警察の力の入れ方も異なり、送還の時期も変わる。警察アタッシェが大使らも巻き込んで大使館ぐるみで動くか、警察庁が外務省に強く働きかけて、より強くフィリピン政府にプッシュするか……、だ。

ただ、私の疑問は、狛江の事件までに警察庁はフィリピン当局にどのような働きかけをしていたかということだ。それが十分なものだったのかどうか。日本側からは送還をめぐるフィリピン側の対応に不満を漏らす声を聞くが、日本のメディアや警察担当者には日本側の対応こそを検証してもらいたい。

容疑者送還と大統領訪日の関係

日本とフィリピン両政府が4人の送還を急いだのは、マルコス大統領の訪日が迫っていたからだ。レムリヤ法相も幾度となく「訪日前に」と口にしていた。結局、渡辺容疑者らを乗せた日本の航空機は、大統領専用機から遅れること数時間後の離陸となったのだが。

大統領の公式訪問中に、賄賂まみれの収容所の実態といった自国の恥が繰り返し報道されるのを避けたい思いがフィリピン側にあったことは確かだが、日本政府としても立場は同じだった。

岸田文雄首相は2月9日の首脳会談で「官民挙げて来年3月までに6000億円の支援を実施する」と約束した。安倍晋三元首相が2017年に当時のドゥテルテ大統領に「5年で1兆円の援助や投資をする」と約束した以上の大盤振る舞いである。

ネット上では、今回の事件と絡めて「なぜ悪党の楽園フィリピンに6000億円も」「防衛増税といっているときに、とんでもない」といった声が多数上がっているのだ。

もちろん今回の事件と援助や投資はまったく別次元の話である。フィリピンへの政府開発援助(ODA)は2019年までの累計で約2兆5000億円と、対インド、バングラデシュに次ぐ世界第3位であり、フィリピンにとって日本は最大の援助供与国だ。

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