津軽線、「鉄道存廃議論」の先にある地元の課題 蟹田―三厩間が存続しても住民連携は不可欠

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そんな視点から沿線を見渡すと、希望の灯ともいえる動きがいくつか見つかる。外ヶ浜町の津軽線・大平駅近くにある「大平山元遺跡」が2021年7月、「北海道・北東北の縄文遺跡群」の構成資産として世界遺産に登録された。地元では遺跡の活用へ、町内や地元大学との連携が深まっている。

注目されるのは、コロナ禍を契機に誕生した創作地域キャラ「風乃まち」の活動と、それを軸に動き出した地元スーパー再生の取り組みだ。「風乃まち」の名は青森県出身の小説家・太宰治が蟹田を「風の町」と呼んだことにちなむ。

国の新型コロナウイルス感染症対策の特別定額給付金10万円を手にした町民が2020年7月、「風乃まち」を創作。蟹田駅前のコーヒーショップやその近くの地元スーパーを拠点として、これらの店の看板などをキーホルダー化して「地元民ガチャ」を開発するなど、地域ブランドと経済活動の創出、ファンづくりを進めてきた。

「縮小だけでなく充実」

拠点だったスーパーが2022年8月、人口減少や郊外型店の進出、そして機材故障で閉店を決めた際、これらの活動に携わってきたメンバーらが経営者を翻意させた。今年1月には、従業員だった経営者の娘が事業を継承、売り場の半分を高齢者や旅人の交流スペースに改装して再スタートを切った。

「風乃まち」を創作した町民は語る。「私たちの地域活動を通じて、関係人口が自然発生的に生じ、縮小だけでない、充実を伴う変化、いわば『縮充』が生まれつつある。鉄道の議論をしようとしている人たちに、ぜひ、目を向けてほしい」

「風乃まち」のポスター
「風乃まち」をあしらったコーヒーショップのポスター=2023年1月(筆者撮影)
蟹田のスーパーの店内(2023年1月筆者撮影)
「風乃まち」を軸にリニューアルしたスーパーの店内=2023年1月(筆者撮影)

津軽半島北部はこれまで、北海道新幹線や津軽線、町営バス、そして各交通拠点が必ずしも十分に連携していなかった。北海道新幹線をめぐるJR北海道とJR東日本の本格的な連携が、ようやく現場レベルで意識されてきた段階だ。蟹田―三厩間が存廃どちらに至っても、この連携を根底から再構築する必要がある。加えて、鉄路や新たな交通体系を利用し、さらには経済的・社会的な活用法をともに考える、町内外の人々とのパートナーシップが欠かせない。

JR東日本にとっては、一連の動きを自ら主導したという点でも、今回のケースは今後の試金石となる。結論だけでなく、一連のプロセスそのものが、他地域の先例となるに違いない。その意味でも、現状に関するデータや地域の実情をしっかり整え、ともすればかみ合わない論点を丹念に整理する営みと、地域のポテンシャルを最大限に生かすビジョンが不可欠だ。

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櫛引 素夫 青森大学教授、地域ジャーナリスト、専門地域調査士

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くしびき もとお / Motoo Kushibiki

1962年青森市生まれ。東奥日報記者を経て2013年より現職。東北大学大学院理学研究科、弘前大学大学院地域社会研究科修了。整備新幹線をテーマに研究活動を行う。

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