ソニー社長交代で見えた「再建→再成長」戦略 複雑さを増すグループ経営と「CFO/COO兼務」

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ソニーGは2019年1月に開催されたCES 2019で初めて「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」というパーパスを掲げた。それまであまり社外に向けてメッセージを発信してこなかった吉田氏が、初めて自信を持って発信した言葉だった。

加えて「夢と好奇心」「多様性」「高潔さと誠実さ」「持続可能性」という価値観も定義しているが、パーパス、価値観ともに、ソニーGに所属する従業員の意識を変えるという意味で大きな役割を果たした。

かつて黄金時代のソニーはトップから開発者、マーケティング、営業職に至るまで、より良いエレクトロニクス製品に特化した企業だった。ソフトウェアやサービスに取り組んだとしても、組織全体のDNAはあくまでも“ハード屋”だった。

しかしメディアのデジタル化に加え、ネットの普及で製品の背景にあるサービスの質などが重要性を増してくると、製品個々の品質やカタチにこだわり、機能面でも先鋭化していく日本の家電製品は相対的に魅力を失っていった。

事業会社が自律的に成長していく体制

あらためてソニーの価値は何であったのか。吉田氏が出した答えが前述のパーパス。そして社内に向け、その意義や精神を語り続け浸透させることで、ソニーGを中心に取り囲む事業会社が従業員と共に自律的に成長していく体制を整えた。

いわば黄金期のソニーを現在の経営環境、社会情勢に照らし合わせ、新たに成長を目指していくための“カタチ”を作ってきたと言えるだろう。

パーパス経営においては必然的に、事業会社の自律的な成長や事業領域の拡大、多様化が進む。

吉田氏は屋号をソニーGに変更した際、各事業会社をソニーGから等距離に置いて業務執行は事業会社の自主性を重んじる体制をとった。必ずしも各事業領域の範囲にとどまる必要はない。パーパスに沿う形で“ソニー”が活躍できるジャンルであればトライし、成長すればソニーGの新しい柱として事業会社へと分離していく。

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