前澤友作氏「シンママ婚活アプリ」炎上の重大盲点 「性善説✕スピーディな開発」には到底適さない

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相手の男性が「まともな人物」で、母親側との恋愛関係もうまく行ったとしても、子どもとの相性がよいとは限らない。真剣に交際し、結婚に至るまでには、相手の男性と子どもとの良好な関係をどう構築するのかという視点が不可欠だ。特に、児童や思春期の子どもが、実父でない男性を「お父さん」として受容するに至るまでには、大きな心理的障壁を乗り越える必要がある。

2、3つめに挙げた男女間の関係についても、「女性(母親)が経済的支援者を探すために婚活する」「(責任を負う気のない)シングルマザー好きの男性が寄ってくる可能性がある」といったことに限らない。

時間的、経済的制約のあるシングルマザーが、新たに恋愛をして、結婚に至るまでには、男女ともに限られたリソースをやりくりできる裁量と、包容力、寛容性が求められる

男性側にも子どもがいる場合は、「四体問題」になり、状況はさらに複雑化する。男女ともに離婚経験があり、それぞれに子どもいたが、再婚して家庭生活もうまく成り立たせている夫婦と出会ったことがあるが、この場合は、夫婦関係に加えて、血のつながっていない子ども同士を「兄弟」として家族関係を作っていく必要がある。

男性側が子どもと同居していない場合でも、養育費の負担をはじめ、父親としての責任を果たし続ける必要もある。男女間の所得格差は残っているとはいえ、世の中の成人男性の多くは、養育費を負担しても懐が痛まないほど資産や収入があるわけではなく、そうした面もさらに問題を複雑にする。

上記に限らず、多種多様な状況が想定しうることを考慮してサービス開発、提供を行う必要がある。

「アプリの役割は出会いの場を提供することであって、出会った後のことは個人間の問題」というのは紛れもない事実であるが、多種多様なリスクを想定したうえでサービス設計をしなければ、「成功事例」の蓄積はできず、長期的な存続は難しくなるというのも、また事実だ。

アプリの提供という形だけで、十分なのか?

否定的なことを書き連ねてきたが、著者はシングルマザーの恋愛・結婚自体については、前向きに捉えているし、ITを活用したマッチングサービスには、もっと様々な可能性が広がっていることも信じている。

世の中には経済的な面や家庭環境などさまざまな悩ましい事情を抱えている人が存在するが、以前はこうした人たちが限られた人間関係の中で、仲間やパートナーを見つけることは困難だった。技術の進化によって、個々の多様な属性、趣味、嗜好が尊重されながら、人と人とがつながり合っていくことは歓迎すべきことだ。

前澤氏が表明している通り、再度、詳細に「コンセプトや機能・サービス内容を見直す」ということをやってもらいたいと思う一方で、「アプリの提供という形だけで、十分なのか?」という疑問もぬぐい切れないのも事実である。

いずれにしても、前澤氏をはじめとするIT起業家がこれまで取ってきた、「スピーディーに意思決定を行い、サービスを開始し、問題が起きたら改変する」という手法は、当該サービスに関してはリスクが大きすぎるように思えてならない。

西山 守 マーケティングコンサルタント、桜美林大学ビジネスマネジメント学群准教授

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にしやま まもる / Mamoru Nishiyama

1971年、鳥取県生まれ。大手広告会社に19年勤務。その後、マーケティングコンサルタントとして独立。2021年4月より桜美林大学ビジネスマネジメント学群准教授に就任。「東洋経済オンラインアワード2023」ニューウェーブ賞受賞。テレビ出演、メディア取材多数。著書に単著『話題を生み出す「しくみ」のつくり方』(宣伝会議)、共著『炎上に負けないクチコミ活用マーケティング』(彩流社)などがある。

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