「牛肉=若いほうがおいしい」という日本人の誤解 食肉の世界に広がる「ヴィンテージ」という発想

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冒頭のとおり、日本の牛肉市場は、どうしても効率を求める傾向にあるので、国産牛(「ホルスタイン去勢」または「黒毛和牛とホルスタインの交雑種」)なら肥育期間が16~24カ月ほど、和牛なら26~32カ月の肉が主流。そのため、長期飼育された牛の肉はあまり見かけないので、ヴィンテージビーフという言葉はあまり聞きません。

しかし最近、和牛の経産牛を出荷する農家がちらほらと現れ、その肉を食べられる店もありますので、メニューを注意して見てください。ちなみに「格之進」でも、1999年の創業時から、常時とは言えませんが経産牛を扱っています。

経産牛と言うと、出産でカスカスの肉というイメージがあるようで、流通することはあまりありませんでした。けれど噛み締めるとジュワッと肉のうま味が広がり、実は美味しいのです

去勢牛も、実はもう数年、5、6年まで肥育した肉の方が美味しいと思います。人間も歳を重ねることで、仕事も人としても円熟味を増しますよね? 牛もそうで、2年ほどではまだ若く、もう少し肥育したほうが味わいが増すのです。

世界一美味しいステーキは肥育期間14年!

長期飼育のお肉が美味しいと示したのが、2015年に公開された、肉好きの映画監督とパリで一番の精肉店店主が、世界一おいしいステーキを見つける旅のドキュメンタリー映画『ステーキ・レボリューション』。この映画で世界一おいしいとされたのが、スペインの肥育期間が14年のステーキ。ちなみに和牛は、3位でした

2017年に、この世界一とされた、スペインのホセ・ゴードンの牧場を視察しました。そこで肉も食べましたが、和牛のとろける甘味とは違い、噛み締めると濃厚な肉味があふれるおいしさがあったことを覚えています。

同牧場はほとんどが去勢牛で、最長で17年(2017年当時)肥育の牛がおり、最も大きい牛は生体重量2500kg(和牛の生体重量は約750kg)! 3歳以上の大人しい性格の優しい去勢牛を購入して、5歳から10歳ぐらいで出荷するそうで、美味しい時期を見極めて肉にするとのことでした。

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