石炭火力発電所の建設は是か非か、迫る審判の日 訴訟の焦点は「環境アセス簡略化」の正当性

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旧来の石油火力発電所はすでに稼働を停止していて、大気汚染物質や温排水は排出されていなかった。ところが、JERAは、1970年代に前身の石油火力発電所がフル稼働していた時期と比較することで、CO2や硫黄酸化物(SOx)、窒素酸化物(NOx)などの大気汚染物質の排出が大幅に削減できるなどと説明。それを根拠として、詳細な調査を省略した。

これについては、鈴木さんたち周辺住民や環境保護団体のみならず、環境アセスの内容に意見を述べる立場にある神奈川県も問題視した。

JERAが公表した環境アセスの第1段階である「配慮書」では、なぜCO2排出量が天然ガスと比べて約2倍も多い石炭を燃料に選定したのかについて説明がなかった。そのため、2016年6月に出された神奈川県知事の意見書では、石炭を選定した理由や検討経緯などについて「住民の理解が得られるよう、分かりやすく丁寧に説明すること」と明記された。

1970年代と比較して「環境負荷が減る」という理屈

しかし、第2段階の「方法書」、第3段階の「準備書」、最終段階の「評価書」でも「当初から抱いていた疑問はいっこうに解消しなかった」と鈴木さんは振り返る。

「古い発電所のフル稼働時と比べればCO2や大気汚染物質の年間の排出総量は確かに減る。しかし、実際には20年以上にわたってフル稼働をしていなかったうえ、直近では稼働を停止していたのだから、実際の排出量は純増となる。それなのにきちんと調査を実施せずに済ませたことは納得できない」(鈴木さん)

横須賀火力発電所から南西約1.7キロメートルに自宅がある原告の大竹裕子さん(65歳)は、「営業運転開始をきっかけに、ぜんそくが再びひどくなるのではないか」と不安を隠せない。これまでにぜんそくの発作で救急搬送されたこともある大竹さんは「あの苦しみは二度と味わいたくない。孫もアレルギー体質なので心配が尽きない」と言い「営業運転はやめてほしい」と強く願っている。

温排水が排出されることで、漁業が打撃を受けることを心配する声もある。横須賀市の漁師で原告の小松原哲也さん(80歳)は「JERAの環境アセスでは発電所の南側の海域の海水温を上昇させると予測していることから、とりわけ海の表層部を回遊するサヨリなどの魚の生息に影響し、取れなくなるのではないか」と危惧する。

すでにこの10年にわたって続いた海水温の上昇とともに起きた、アワビやサザエ、ミル貝などの漁獲高の大幅な減少に見舞われている小松原さんは「壊滅的なダメージにつながりかねない」と不安を吐露する。

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