マセラティがライバルより先にエンジンやめる訳 創業110周年「フォルゴーレ」の名でBEVを投入

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BEVスポーツカーとして先行するポルシェ「タイカン」に対抗するパフォーマンスである。ちなみにネットゥーノエンジンを搭載するICEモデルが先に発表され、フォルゴーレは少し遅れての登場となるようだ。

それだけではない。マセラティは2025年までに全モデルにBEVを設定し、2030年以降販売するモデルは「すべてをBEVとする」と宣言している。つまり、モデナ地区のフェラーリ、ランボルギーニなどがPHEV化で当面の環境対応を行う中で、マセラティは先手を切ってZEV(ゼロエミッションヴィークル)への対応を図るという戦略で臨む。

フォルゴーレのパワートレイン(写真:Maserati)

マセラティのBEV第1弾となる新型グラントゥーリズモに先行して開発されたMC20は、当初PHEVとなる計画であったが、急遽ICEとBEVという2モデル体制へと開発プラン変更されたという経緯もそこにはあった。

実のところ、マセラティの電動化への取り組みは、ライバルメーカーと比較してもかなり早い段階から進行していた。FCAグループ、そしてマセラティをマネージメントした故マルキオンネは、電動化への流れが避けられないことをいち早く察知し、技術畑出身で最新技術にも明るいハラルド・ウェスターをマセラティやアルファロメオのCEOの座から、FCAグループのチーフテクニカルオフィサーへと移籍させていた。

彼の指揮下のもと、電動化をトッププライオリティとして開発を進めていたのだ。自動車メーカーのブランディングにおいて、電動化が大きなファクターとなることを先読みしていたのである。

創業110年目の大転換

その流れの中で、ダヴィデ・グラッソというブランディングのエキスパートがCEOとして投入され、マセラティのリブランディングの目玉として電動化戦略を設定したというのがマセラティの電動化に関するストーリーだ。

ダヴィデ・グラッソCEO(左)とカルロス・タバレスCEO(右)グレカーレ・フォルゴーレの前で(写真:Maserati)

「マセラティにおける電動化は重要なポイントです。先日、新型グラントゥーリズモ・フォルゴーレをサーキットで試乗しましたが、これにはうならせられました。まさにクルマ好きの方が本当に楽しめるBEVであると確信しました。しかし、マセラティのすべてがZEVに向けて突き進むワケではありません。現在はマーケットによって使いわけていく、という戦略がとられています。最新テクノロジーを導入したネットゥーノエンジンがICEとして高い人気を呈していますし、パフォーマンス指向へと振ったマイルドハイブリッドモデルも世界的に好調です」

こんなふうに木村氏はまとめてくれた。2024年には、節目の年である創業110周年を祝うことになるマセラティ。そのアグレッシブな動向からは目が離せないようだ。

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越湖 信一 PRコンサルタント、EKKO PROJECT代表

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えっこ しんいち / Shinichi Ekko

イタリアのモデナ、トリノにおいて幅広い人脈を持つカー・ヒストリアン。前職であるレコード会社ディレクター時代には、世界各国のエンターテインメントビジネスにかかわりながら、ジャーナリスト、マセラティ・クラブ・オブ・ジャパン代表として自動車業界にかかわる。現在はビジネスコンサルタントおよびジャーナリスト活動の母体としてEKKO PROJECTを主宰。クラシックカー鑑定のオーソリティであるイタリアヒストリカセクレタ社の日本窓口も務める。著書に『Maserati Complete Guide』『Giorgetto Giugiaro 世紀のカーデザイナー』『フェラーリ・ランボルギーニ・マセラティ 伝説を生み出すブランディング』などがある。

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