割り切れる?「脳死→臓器提供」決断した家族の本音 「きれいな体にメスを入れるなんて」親の反対も

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心に決めたものの、複数回にわたる確認をされることで、考える時間が生まれる。「時間が経つにつれ、妻がやつれてつらがっているように思え、早く楽にしてやりたいと考えるまでになった」(五十嵐さん)。さらに脳死を人の死とは考えられない親族らからの言葉も重しとなった。決断したとはいえ、幾度も心が折れそうになったという。

そんななか、移植に反対していた妻の母から臓器を取り出す数時間前に「あなたの気持ちはわかったから。(手術を)進めていいよ」と、電話があった。

提供後、レシピエント家族からJOTを通してサンクスレターをもらった五十嵐さん。肺が移植された母親からは、「子どもと買い物ができるようになった」といった内容が書かれていた。「つらかったけれど、今、生きている方々の生活を応援できていると思うとうれしい」と話した。

脳死状態になってから提供を決めた家族

生前、意思表示や命について話す機会はなかったものの、脳死状態になってから家族で話し合って決めた人もいる。

高橋治さん(仮名、40代)の父親(当時54)は、妻と花見に行く途中の駅のホームで急に気分が悪くなり、倒れた。病院に運ばれてすぐに手術をしたものの、倒れてからわずか2週間で脳死状態になった。

そのあたりの記憶があいまいだが、脳死状態になってから、JOTのコーディネーターから臓器提供について話を聞いたことは覚えている。父の病状から臓器を待つ待機者の話まで、さまざまな疑問に答えてくれたという。「もともと臓器移植という医療があるというのは知っていたが、父がそれに該当するというのをそのときに初めて知った」(高橋さん)

父とはずっと疎遠で、臓器提供について話をする機会はなかった。だが、病室に集まった母と兄弟の家族3人で相談し、「父という人格の命は死を迎えるかもしれないが、誰かの命の役に立てるならぜひ提供したい」と決めた。

家族とは移植のときの話をすることはないが、マイナンバーや免許証などにある「臓器提供の意思表示」欄を見たり記入したりするときに、「父の臓器は今ごろどうなっているのかな。人生謳歌しているといいな、と思う」と話した。

今回体験談を話してくれた方々は「臓器提供を積極的に推し進めたい」わけではない。いざというときに、その場で考えると、「本人はどう思っているのだろう」と悩んだり、家族の合意が取れなかったりすることも少なくない。自分のときはどうしてほしいのか、家族で話す機会を作ってみるのはいかがだろうか。

(4日目『夫から親から…生体腎移植を選んだ「家族の決意」』)

富田 頌子 東洋経済 記者

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とみた しょうこ / Shoko Tomita

銀行を経て2014年東洋経済新報社入社。電機・家電量販店業界の担当記者や『週刊東洋経済』編集部を経験した後、「東洋経済オンライン」編集部へ。

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