レコ大と大違い?「韓国の音楽賞」盛り上がるワケ 人気授賞式「MAMA」から見えた音楽賞の意味

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もちろん事務所やアーティスト側にも思惑がないわけではない。単独のコンサートとは違い、音楽賞では自分のグループ以外のファンが多数自分たちのパフォーマンスを見る。こうした中、「特に新人のアーティスなどは他のグループのファンを取り込もうという気概のあるステージを見せる」(韓国音楽に詳しいジャーナリスト)。

Stray Kids
単独コンサートとは一味違うパフォーマンスもファンにとっては見どころだという。写真はStray Kids(写真:「2022 MAMA AWARDS」 (c) CJ ENM Co., Ltd, All Rights Reserved)

こうして、アーティスト、ファン、事務所、主催者がすべて「アクターとなって参加して、ともに成長している」(金教授)のが、今の韓国の音楽賞の特徴のようだ。「K-POPは、特定の権威や権力によって作られるものではない。MAMAのような音楽賞も、たんにアーティストを讃える権威的な存在ではなく、コンテンツとしての舞台や物語を蓄積し、K-POPの歴史に参加しているアクターである」。関係者がそれぞれの立場でより盛り上げようとする姿勢が、見る側にとっては新鮮な体験につながっているのかもしれない。

「グラミー賞のようにはなっていない」

一方で、韓国内では「音楽賞の数はあっても、グラミー賞のような権威ある賞にはなっていない」という手厳しい報道もある。

11月13日付のザ・コリア・タイムス紙では、音楽評論家が「グラミー賞やビルボードなどは1日で終わるのに、多くの韓国の音楽賞は2日にわたって行われる。1日目は配信で人気を集めたアーティスト、2日目はアルバムセールスを基準に賞が授与されるがその意味がわからない。結局、2日に分ける目的はより多くのチケットを販売し、利益を上げるためなのではないか」と指摘。

また、「例えば、グラミー賞はレコーディング・アカデミーが投票し、ビルボードはチャートに基づくなどそれぞれ基準があるが、韓国の音楽賞には明確な基準が示されていない。チャートや売り上げ、審査員の意見などを合わせて不明確な基準で賞を決めている」とも批判している。

金教授も「これからは(審査プロセスなど)の開放性が重要になってくる」と指摘する。「K-POPがグローバル化していけばいくほど、ファンと業界の多様な声とまなざしを反映できるシステムが求められるだろう」。

K-POPを世界に発信するという意味では一定の成果を上げている韓国の音楽賞。今後はより権威を得るための競争が加速するのかもしれない。

倉沢 美左 東洋経済 記者

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くらさわ みさ / Misa Kurasawa

米ニューヨーク大学ジャーナリズム学部/経済学部卒。東洋経済新報社ニューヨーク支局を経て、日本経済新聞社米州総局(ニューヨーク)の記者としてハイテク企業を中心に取材。米国に11年滞在後、2006年に東洋経済新報社入社。放送、電力業界などを担当する傍ら、米国のハイテク企業や経営者の取材も趣味的に続けている。2015年4月から東洋経済オンライン編集部に所属、2018年10月から副編集長。 中南米(とりわけブラジル)が好きで、「南米特集」を夢見ているが自分が現役中は難しい気がしている。歌も好き。

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