「管理職になりたい日本人」極端に少ない根本理由 職場コミュニティからはみ出てもいいことない

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それを受けて多くの企業では内部通報制度を導入した。2018年に行われたある調査では、上場企業の97.4%が内部通報制度を取り入れている。しかし、制度の利用状況は年間0〜5件が54.8%と過半数を占め、制度は存在するが必ずしも十分に利用されていない実態が明らかになっている。

実際、不祥事により大きな社会的非難を浴び、企業を揺るがすまでにいたった大手電機メーカーや自動車メーカーなどでは、社内に内部通報制度が設けられていたにもかかわらず、不正を早期に発見することができなかった。このことは、社員にとって制度の利用がいかにハードルが高いか、すなわち会社という共同体を敵に回すことがどれだけ困難かを物語っている。

通報に対する「しっぺ返し」恐れる風潮

そもそも不正を通報することが社会的利益はもとより、長期的には企業の利益につながるとしても、短期的には企業と関係者の利益を損なうものと受け止められやすい。またよい悪いは別にして、通報が仲間を裏切ることになり、共同体の一員としての連帯感や信頼感を失いかねない。そして、いくら秘密裏に通報したとしても、共同体型組織のなかでは、だれが通報したかおおよその見当がつく。

通報者が不利にならないよう法律で処遇上の不利益な扱いが禁じられていても、日本企業のあいまいな評価制度と人事の大幅な裁量のもとでは、通報したことに対していつ、どのような形でしっぺ返しを食らうかわからない。

たとえば、つぎのようなケースを考えてみよう。ある人が、上司の温情で社内の基準から外れる働き方を黙認されていたとする。ところが内部告発したことを機に、「コンプライアンスの徹底」という理由で規則どおりの働き方を求められたとしても文句はいえまい。温情の撤回が実質的な報復になるのだ。あるいは人事異動の際に、「適材適所」の名のもと、本人が希望しない部署へ配属されても報復人事だと立証することが困難な場合がある。

通報者にとって、それ以上に厳しいのは周囲との人間関係にヒビが入ることである。

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