廃車を解体して再資源化「鉄道リサイクル」の実態 人目に触れない「重要事業」をどう行っているか

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富山に戻ると、さっそく社内で検討を始めた。自動車リサイクルのノウハウを鉄道車両のリサイクルに活かせるのではないか。鉄道車両に使われている鉄、アルミはもちろんのこと、制御機器に使われているプリント基板からは金や銀などの貴金属類やレアメタルが回収できる。車両に使われている電線は、ケーブルを覆う樹脂を剥離すれば良質の銅だけが残る。鉄道車両は宝の山だ。

自動車のリサイクル率はノウハウを積み重ねることで98%を超えるまでに至った。鉄道車両でも自動車並みのリサイクル率を実現できるのではないか。さらにいえば、大手の鉄道会社は環境への意識も高い。われわれのビジネスに注目してくれるのではないか。かつて、貨物用車両のリサイクルを行ったことがあり、経験があるという点も高倉社長の背中を押した。

高倉康氏社長
日本総合リサイクルの高倉康氏社長(記者撮影)

ちょうどその頃、大手製紙メーカーの日本製紙グループが高岡市内にある伏木工場を閉鎖し、工場設備を解体するという話が出ており、豊富産業は解体作業の受注を狙って見積書を作成していた。工場跡地は約15万平米という広大な面積。伏木富山港に面し、敷地内にはJRの引き込み線もある。これなら船や線路を使って全国から車両を敷地内に運び込むことができるかもしれない。2009年6月、鉄道車両を買い取り、再資源化して販売するビジネスを行う日本車両リサイクルが誕生した。

第1号案件は「食パン電車」

2012年10月、日本製紙から取得した土地に建設中の新工場が完成した。第1号案件はJR西日本の419系。特急型電車583系の中間車両に運転台を取り付けたことに伴うユニークな先頭形状から、「食パン電車」として鉄道ファンの間で人気を博した車両だ。その後も富山地方鉄道、あいの風とやま鉄道、北陸鉄道、黒部峡谷鉄道などの地元の鉄道事業者、さらに名古屋市交通局、東京地下鉄、ゆりかもめなど全国の鉄道事業者の車両リサイクルを手がけている。広い敷地を活用して、バス車両のリサイクルも行っている。

創業から10年あまり。2021年11月期の売上高は40億円に達した。ただ、思い通りに業績が拡大したわけではない。

まず、鉄道の引き込み線を使って車両を敷地内に運び入れるというアイデアは実現が難しいことがわかった。線路の上を走って車両を輸送する“甲種輸送”のコストが想定を超えていたのだ。「1両の価格が何億円もする新車ならともかく、われわれのビジネスではそこまでのコストは払えない」と、高倉社長。船舶による輸送もやはり高コストのため断念した。

車両はトレーラーによる陸送で工場に運び込むが、このコストも安くない。その額は1両あたり130万〜140万円。関東からだと2晩かかる。1晩で運べば半額になるが、大型車両の輸送は交通量の少ない深夜に限られる。そうすると1晩で運ぶのは無理なのだ。

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