貧しくなった世界を「中国が牛耳る」という悪夢 ポスト・ウクライナのグローバル世界の行方

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大澤:うん、そういう背景を考えると、もし中国と西側、あるいは中国とアメリカがかなり厳しい葛藤になったときに、中国から借款している国など、かなりの数が中国側になびく状況になると思います。ロシアとウクライナ、ヨーロッパが対立しているときでさえも、あんまり西側を応援したくないなと思う国々がかなりある。まして、中国がアメリカと対決した場合には、自由主義陣営の味方がどれほどいるだろうかと考えてしまいます。

ということを踏まえると、僕らがやらなきゃいけないことは、中国の台湾侵攻を含めて、万が一があったときに、中国につくよりも西側についたほうがいいぞ、中国共産党の支配に入るなんてとんでもないことだぞという理念や思想を世界に提示することです。

でも、その理念を差し出すのはすごく難しいことでもある。どう考えてもリベラルデモクラシーのほうがいいに決まっているはずなのに、なぜ味方が集まらないのか。それは、リベラルデモクラシーの原則がまったくグローバル化していなくて、逆にリベラルデモクラシーに搾取されていると思っている国がたくさんあるからなんですよ。

だから僕らは、中国に直接対決するという以前に、いざというとき中国につきそうな国がたくさん残っている状態をまず克服しなきゃいけないと思うんです。権威主義の側につく外野の存在、それが一番脅威なような気がしますが、その辺はどうでしょうか。

なぜ自由主義社会は魅力を失ったのか

橋爪:なぜリベラルデモクラシーが魅力的に見えないのか。これはとても大事で大きい問題だと思うので、本格的な議論は、また改めて大澤さんとやってみたいと思いますが、ここでは簡単に私見を述べますね。

大澤:お願いします。

橋爪:資本と技術と労働力がどう組み合わさって経済的な富を生み出すのか。これについては、初期の産業社会では、資本も技術も労働力も必要で、とくに労働者のやる気がとても大事として、労働組合も機能していた。

だから資本が全部取ることはできなくて、労働者や、管理職も入れて、そういう人たちにそれなりの配当をする。彼らが消費をして、ぶ厚い中産階級が出来ていくという古典的な発展がかつてあった。1950年代、1960年代、1970年代、日本も1980年代まではこんな感じできていたわけです。

大澤:まだ人々に働きがいがあった時代ですね。

橋爪:うん、そう。でも、気がついたらその状況が変わってきた。製造業というのは、道路や鉄道の整備に連動するように、材料を運搬して、労働者が通勤して、製品を配ってという、きわめてローカルな産業なんですよ。だから、各国に製造業がある、各地に製造業があるということが、満遍なく近代化が進むということのモデルにもなってきたわけです。

だけど、情報化が進んでくると、ローカルであることはいかにも効率が悪い。どこか1カ所で半導体を生産し、どこか1カ所でソフトウェアを開発し、どこか1カ所ですべてのビジネスを仕切って、それを巨大企業が牛耳る。それが一番合理的だと判断された。そうするとアマゾンみたいな巨大企業が出てきて、それが膨大な収益を上げ始めた。

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