飲酒運転の被害者遺族「人型パネル」に救われた訳 母娘の軌跡から家族とグリーフケアを考える

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関西学院大学では2016年からメッセージ展を開催している。赤田さんは今年も実行委員の学生2人を引率して、東京都日野市のミュージアムを訪れた。学生がギャラリーを見学する間、赤田さんはアトリエで作業し、事務所で打ち合わせをして過ごした。

ミュージアムに来館しても、弟・隆陸さんのメッセンジャーのいるギャラリーには立ち寄らずに帰ることが多いという。

「私は、母のようにパネルの弟に向き合ったり語りかけたりはしないです。だって、ショックじゃないですか? 母の命をつなぎとめるのに、これ(メッセンジャー)に勝てないんですよ。1枚のパネルに」

「人型パネル」の詩に秘められた思い

2001年活動が始まり、2010年に常設展示ができた「生命のメッセージ」展。活動拠点は間もなく閉じられ、移転先探しはこれから本格化する。大分県の佐藤さんら、各地に「下宿」中のメッセンジャーたちが再び1カ所に集う日は、いつになるだろうか。

活動を立ち上げた鈴木共子さんは、アーティストだ。これまで、偽りのない気持ちを多くの詩につづってきた。「人型パネル」と題する詩では、活動への思いも伝えようとしている。

人型パネル
アトリエに
「メッセンジャー」と呼ばれる
人型パネルを作るために
遠方より遺族が訪れた
真っ白なパネルから
亡き愛するものを
切り出して
愛おしそうに磨き上げる
我が子、我が妻、我が夫
我が母、我が父
我が兄弟、我が姉妹
たかが人型パネル
されど人型パネル
哀れさと無念さが
こみあげて
磨く手がしばし
止まってしまうが
遺されたものたちが
渾身の想いをこめて
生命を吹き込んでいる
たかが人型パネル
されど人型パネル
このままあなたたちを
葬り去りはしない
忘れさせはしない
断ち切られた未来を
想像力で取り戻させる

取材:穐吉洋子=フロントラインプレス(Frontline Press)所属

Frontline Press

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「誰も知らない世界を 誰もが知る世界に」を掲げる取材記者グループ(代表=高田昌幸・東京都市大学メディア情報学部教授)。2019年5月に合同会社を設立して正式に発足。調査報道や手触り感のあるルポを軸に、新しいかたちでニュースを世に送り出す。取材記者や研究者ら約40人が参加。スマートニュース社の子会社「スローニュース」による調査報道支援プログラムの第1号に選定(2019年)、東洋経済「オンラインアワード2020」の「ソーシャルインパクト賞」を受賞(2020年)。公式HP https://frontlinepress.jp

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