長野の温泉街に「スナック80軒集積」陥る三重苦 「昭和好き」の女性や若者たちを取り込む施策も

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取り組みを通じて浮上した課題もある。スナックの従来の客は中高年の男性だが、女性客を呼び込もうとすると、情報発信やメニューの改善以外にも、抜本的な改革が必要になる。たとえばトイレが男女共用で、水回りが老朽化しているスナックも少なくない。30代の女性参加者は、「お手洗いの居心地が良くないとリピーターにはなりづらい」と率直な感想を漏らした。

今回の事業は、信州千曲観光局に加盟している19軒のうち15軒が参加しているが、前述した通り温泉街にはスナックが約80軒あり、売春をあっせんする「連れ出しスナック」の集積地として密かに知られるエリアでもある。路上には客引きもいて、女性の個人客が歩きづらい雰囲気も残っている。

「ありのままの昭和」が求められている訳ではない

山崎さんは、「行政として支援する以上、グレーな部分をどうするかも考えないといけない。短期的な取り組みではなく腰を据えてやっていきたい」と話す。

モニターツアーを受け入れたママの一人は、参加者に「気軽に入ってほしいとドアも開けているんだけど、あまり効果がない」「若い人に来てほしいんだけど伝わらない」と訴えていたが、その数日後、インスタグラムに店の公式アカウントを開設した。

若者の間で「昭和」がブームになっているが、昭和生まれではない彼らが求めているのは「昭和歌謡」「昭和レトロ」であって、ありのままの昭和ではない。戸倉上山田温泉街は、昭和を磨くと同時に、昭和からのアップデートも求められている。

浦上 早苗 経済ジャーナリスト

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うらがみ さなえ / Sanae Uragami

早稲田大学政治経済学部卒。西日本新聞社を経て、中国・大連に国費博士留学および少数民族向けの大学で講師。2016年夏以降東京で、執筆、翻訳、教育など。中国メディアとの関わりが多いので、複数媒体で経済ニュースを翻訳、執筆。法政大学MBA兼任講師(コミュニケーション・マネジメント)。新書に『新型コロナVS中国14億人』(小学館新書)。
Twitter: @sanadi37

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