立て続けに5件、日立「大型鉄道案件」受注の死角 1カ月間に各国で契約、海外売上比率8割だが…

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世界各国から信号システムなど車両以外の受注が大きく増えているのは、2015年にイタリアの防衛・航空メーカー、フィンメカニカから買収した同社の鉄道車両事業と信号システム事業が技術、生産、営業などさまざまな面で成果を出している証左といえる。

さらに日立は現在、フランスの防衛・航空宇宙メーカーのタレスから鉄道信号システム事業を買収する交渉を行っており、2022年度末までの買収完了を目指す。実現すれば、同事業の売り上げおよそ2000億円が日立に上乗せされるだけでなく、日立の鉄道信号システム事業の強化にもつながる。タレスのグローバルな営業拠点は「これまで日立の手薄な地域を補完する」(日立広報)としており、その点でも買収のメリットは大きい。

売り上げの8割は海外市場から

10月28日に発表された日立の2022年度連結決算において、鉄道事業の売上高は前年同期比9%増の3138億円だった。通期では前期比8%増の6797億円を計画している。日本国内の鉄道車両メーカー各社と比較すると、日立と並び2強と称される川崎重工業の鉄道車両事業の2022年度業績予想は1400億円。国内の鉄道車両メーカーの中では、日立は売上高で頭ひとつ突き抜けた存在だ。

その売り上げの8割は海外市場からもたらされている。老朽化車両の置き換え需要くらいしか見当たらない日本市場を主戦場とする車両メーカーとは対照的だ。また、売り上げの4割は信号システムなど車両以外で稼いでいることは、ITやAIなどの技術革新を取り入れようとする世界中の鉄道業界のトレンドにも合致する。タレスを手中に収めればこの流れはさらに加速する。

しかし、油断は禁物。日立はいまやシーメンスやアルストムに比肩する規模に成長したとはいえ、規模が大きければよいというものでもない。ほんの数年前までシーメンス、アルストムとともに「ビッグスリー」と呼ばれたボンバルディアの鉄道部門は2021年1月にアルストムに統合され、その名が消滅した。GEは2015年度には59億ドル(約8300億円)もの売り上げを誇った鉄道事業を2019年1月に売却している。かりに鉄道事業が好調だとしてもほかの事業の不振により会社全体が傾けば、鉄道事業が切り売りされるかもしれない。実際、日立もフィンメカニカの鉄道車両や信号事業を買収して現在の地歩を築いた。

数年後に何が起きるかわからないという点では日本国内とはまるで異なる。日立が選んだのはそんな弱肉強食の世界である。

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大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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