首脳会談で関係改善にようやく踏み出した日韓 韓国も対米・対日重視を鮮明、中国とは距離も

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和解・癒やし財団は2018年に当時の文在寅政権が一方的に解散を決定したことで、翌2019年に解散された。そのため、同財団には日本からの拠出金のうち5億円以上が残っており、日本側が同意すればこの資金を元徴用工への補償に充てるという案だ。

しかし「韓国の元徴用工やその支援団体は多様で、全員が納得する解決策は極めて難しい」(小針教授)。同時に、日本は「1965年の日韓基本条約で解決済み」という姿勢を崩していない。韓国政府は、改めて国会で承認を得る必要がない財団(公益法人「日帝強制動員被害者支援財団」)が被告である日本企業の肩代わりとなる案を韓国内の関係者や日本側に打診しているようだ。

それでも、国内での合意形成を十分に行わないままに日本と合意してしまうと、前述した日韓慰安婦合意のような残念な結果が繰り返されないか心配だと小針教授はいう。

対米・対中重視を鮮明にした尹政権

また同じ11月13日に、日米韓の3カ国首脳会談も行われた。会談後に出された共同声明では、ミサイル発射を繰り返す北朝鮮に対して、「朝鮮半島及びそれを超える地域の平和及び安全に対する重大な脅威を及ぼす相次ぐ通常の軍事的活動を強く非難する」ことで合意。さらに、アメリカのバイデン大統領は日本と韓国の防衛へのコミットメントを確認し、「核を含むあらゆる種類の能力によって裏打ちされている」と表明した。

ここで尹大統領は、2022年8月に提案した北朝鮮向けの「大胆な構想」を日米両首脳に説明、支持を取り付けたようだ。会談後の声明でも「『大胆な構想』の目標に対する支持を表明する」としている。

「大胆な構想」とは、北朝鮮が核開発を中断し、実質的な非核化に転換した場合、その段階に合わせて、北朝鮮の経済と住民の暮らしを画期的に改善できる構想だ。具体的には、大規模な食糧供給プログラム、発電など電力関係のインフラ支援、港湾や空港の現代化、農業生産向上のための支援などが提案されている。

また共同声明には、「不法な海洋権益に関する主張、埋立地の軍事化」や「台湾に関する基本的立場に変更がないことを強調」といった、中国を指す内容が盛り込まれている。文・前政権では中国を刺激することを考えてここまで踏み込んだ内容を発表、同意することは珍しかった。尹大統領は、対米・対日を重視する外交政策を行うと鮮明にしたことになるだろう。

一方で、これも懸案となっている日本による対韓輸出管理規制に関係しそうな文言も盛り込まれた。「『安全かつ強靱なサプライチェーンを引き続き確保』『経済的威圧に一丸となって反対』といった表現が声明に入っており、見方によっては日本の対韓輸出管理を緩和させる根拠にもなりえる」(小針教授)。

米中対立、ウクライナ戦争によるロシアの動き、そして北朝鮮と外交安保面での懸案が積み重なる中、アメリカの同盟国の中で日韓の関係の脆さがアメリカで懸念されてきた。今回の一連の首脳会談で、日韓関係の改善の必要性が改めて認識され、同盟の結束力を強化することで一致できた。

ただ岸田、尹政権ともに国内の支持率は低迷し、韓国では野党が国会を握っている。歴史問題などの解決に向けて関係改善をさらに進めるには、両者ともに国内世論を意識しながら慎重にことを進めるという綱渡りの外交にもなりそうだ。

福田 恵介 東洋経済 解説部コラムニスト

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ふくだ けいすけ / Keisuke Fukuda

1968年長崎県生まれ。神戸市外国語大学外国語学部ロシア学科卒。毎日新聞記者を経て、1992年東洋経済新報社入社。1999年から1年間、韓国・延世大学留学。著書に『図解 金正日と北朝鮮問題』(東洋経済新報社)、訳書に『朝鮮半島のいちばん長い日』『サムスン電子』『サムスンCEO』『李健煕(イ・ゴンヒ)―サムスンの孤独な帝王』『アン・チョルス 経営の原則』(すべて、東洋経済新報社)など。

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