タイに渡った元JR北海道「キハ183」再始動への道 「日本カラー」打ち出し観光列車ルートで試運転

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復路は折り返しのため、信号扱いのあるコックサルンまで走り、その後はマッカサンを目指してほぼノンストップだった。バンスーまではちょうど3時間、快適な空間と初めて味わう感覚、それにちょっとした好奇心で、あっという間の道中であった。ちなみに、現在運行されている「ひまわり列車」では2等冷房車で往復560バーツ(約2190円)である。

コックサルン駅のキハ183
コックサルン駅の駅名標とキハ183(筆者撮影)

今回、SRTは中古車両の導入に関して、冒頭の運行ルートアンケートに限らず、異例と言えるほど大々的な告知を続けている。室蘭港から船積みされたキハ183は2021年12月にタイに到着し、以来整備作業が続けられてきた。SRTは整備工程を逐一SNSなどにアップロードし、試運転の様子も公開してきた。その結果、「日本から車両がやってくる」ということで鉄道ファンのみならず幅広くタイ国内で注目を集めることになったが、実はこれには抜き差しならない事情があった。

4年半の「塩漬け」、そして批判…

キハ183の導入については、2021年11月に車両が北海道から船積みされる直前、タイの英字紙バンコクポストの報道を発端に、批判的な声が大きくなった。

キハ183は製造後40年近くが経過した車両であるだけでなく、港湾エリアに4年半もの間放置された結果、潮風にやられて「見た目」の劣化が急速に進行していた。SRTは、過去に日本から導入した中古車両のキハ58を持て余してしまったという「前科」もあり、一部には改造途中で放棄され、一度も運行されずに終わった車両もある。そこを突いて「廃棄物を購入するのはナンセンスだ」とセンセーショナルに報じられてしまったのである。

今回の譲渡は、車両自体は無償だが、輸送費は約4250万バーツ(約1億6600万円)をSRTが負担している。タイ側での予算承認が下りない限り輸送ができず、さらにコロナ禍という追い打ちもかかり、結果的に車両は引退後、長期間にわたって塩漬けになってしまった。

さらにはこの間にSRT総裁の交代もあった。新総裁は仕事にも金にも厳しいエリートという前評判で、はたしてキハ183が無事タイに渡ることができるのか、関係者は固唾をのんで見守るしかなかった。幸い、「前総裁時に結んだものであっても契約は守らなければならない」という新総裁の判断のもと、いよいよ輸送予算が付き、誰もがほっと胸をなでおろした直後の批判報道だった。

関係者はまたしても冷や水を浴びせられた格好だったが、それでもなんとか、17両のキハ183は室蘭港を旅立った。長引く留置期間中も、関係者の厚意によって機能維持のために定期的にエンジンを始動させ、生きた状態でタイに引き渡すべく努力が続けられていた。それがようやく報われた。

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