"炎上王"イーロン・マスクという「地政学リスク」 ウクライナや台湾の「割譲」を触れ回った

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さらにマスク氏はここに来て、おそらく世界で最もきわどい地政学問題にも首を突っ込むようになった。台湾だ。

中国と台湾の間の緊張は、マスク氏のビジネス帝国に重大なリスクをもたらす。テスラは上海に製造施設を持ち、新車の実に半分をそこで生産している。中国政府は、中国における西側企業の活動を厳しく管理しているため、テスラの中国依存がマスク氏の政治スタンスに及ぼす影響を不安視する声はずいぶんと前から存在した。

マスク氏は10月、フィナンシャル・タイムズのインタビューで、中国政府からの圧力に直面していることを認めた。中国政府はウクライナにスターリンクのサービスを提供したマスク氏の行動に明確に反対し、同様のサービスを中国で提供しないという確約を求めてきた、とマスク氏は明かした。

その上で同氏は中台の緊張緩和策を示したわけだが、それは台湾の支配権の一部を中国に渡すというものだった。

発言撤回を求める台湾

アメリカやその同盟国の方針と決別するこの発言は、台湾の政治家から激しい非難を浴びた。

台湾立法院で外交防衛委員会に所属する民主進歩党の趙天麟・立法委員(国会議員に相当)はニューヨーク・タイムズの電話インタビューで、マスク氏に発言を撤回するよう求めた。「応じないのなら、台湾だけでなく、自由民主主義国の全消費者に対し、テスラと関連製品のボイコットを心から呼びかけるつもりだ」。

すでに一部で指摘されているように、中国と台湾の間で軍事衝突が起きれば、台湾もウクライナ同様、マスク氏に衛星インターネットという緊急通信手段の提供を求めることになるだろう。しかし、マスク氏の公的な言動や中国とのつながりを考えると、スターリンクは頼れる選択肢とはならない可能性がある。

(執筆:Cade Metz記者、Adam Satariano記者、Chang Che記者)

(C)2022 The New York Times 

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