宇宙で急病になったらどうする?健康管理の実態 専門知識を持つ医師・フライトサージャンとは

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人類が宇宙に行くようになってから約60年、これまで幸いなことに宇宙で深刻なケガや病気になった例はありませんでした。地上と宇宙とで協力しあい、宇宙飛行士自身もいざというときの緊急対応がある程度は可能です。

とはいえこれから宇宙進出の機会が増えてくると軌道上でさらに高度な医療行為が必要になるかもしれません。そこで、NASAを中心に、離れた場所を通信でつないで遠隔地に医療行為を提供する技術「遠隔医療(テレメディシン)」の研究が進められています。

2007年にはフロリダ州の海底施設で、第12回NASA極限環境ミッション運用(NEEMO12)の中で遠隔手術ロボットの実証が行われました。遠隔手術を実現するには、高度な操作ができるロボットや通信の遅延のコントロールなどさまざまな要素が必要とされます。

宇宙飛行士を守るだけでなく、遠隔医療の技術は地上でも応用が可能です。僻地医療や災害時などさまざまな利用が考えられ、現在では宇宙用の技術を応用し、地上でレーザー手術を可能にする技術も開発されています。

2021年には「ゲノム編集」の実験が

今後、月や火星といった遠い惑星で長い有人ミッションを行うようになると、放射線被ばくの影響が深刻になってきます。

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現在のISS長期滞在では、宇宙飛行士はそれぞれ線量計を装着して累積した被ばく量を測って分析しますし、船内には放射線測定装置が設置されていてリアルタイムモニタリングも行われています。

とはいえ往復で1年以上かかる火星ミッションの際に、DNA損傷といった大きな健康リスクが発生した場合はどうすれば良いのでしょうか?

2021年にISSで行われたのは、なんとゲノム編集という高度な宇宙医療の実験です。

CRISPRというDNAを切ってつなぎ合わせる操作をISS上で行い、DNAを修復することに成功しました。将来、宇宙飛行士やフライトサージャンが協力して、病気になる前に健康を取り戻すこともできるようになるかもしれません。

野口 聡一 宇宙飛行士

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のぐち そういち / Soichi Noguchi

博士(学術)。1996年5月、NASDA(現JAXA)の宇宙飛行士候補者に選抜、同年6月NASDA入社。2005年スペースシャトル「ディスカバリー号」で、国際宇宙ステーション(ISS)に滞在、3度の船外活動をリーダーとして行う。2009年、ソユーズ宇宙船に船長補佐として搭乗。2020年、日本人で初めて、民間スペースX社の宇宙船に搭乗、約5か月半、ISSに滞在した。4度目の船外活動(EVA)や、「きぼう」日本実験棟における様々なミッションを実施し、2021年5月、地球へ帰還。主な著書に『どう生きるか つらかったときの話をしよう 自分らしく生きていくために必要な22のこと』アスコム刊がある。

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