宇宙で急病になったらどうする?健康管理の実態 専門知識を持つ医師・フライトサージャンとは

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フライトサージャンは、実は私たちが宇宙飛行士として選抜されたときから引退後までの長いサポートを担ってくれています。宇宙飛行士に選抜されたとしても、実際の宇宙ミッションに任命されるまで、何年も地上訓練を続けなければなりません。

長い待機の間も、いつでもミッションに参加できるように健康状態を保っていなくてはならないため、専任の医師による医学審査が欠かせないのです。

宇宙飛行ミッションに任命されると

宇宙飛行ミッションに任命されると、打ち上げの1年も前から心電図を記録し、当日まで医学検査やフライトサージャンによる診察などの健康管理が続きます。

打ち上げが近づくと、クルーは専用の宿舎で「検疫隔離」されます。接触できるのは、フライトサージャンをはじめ限られた大人だけ。私がフライトエンジニアを務めたロシアのソユーズ宇宙船のフライトでは、打ち上げ前会見を透明な仕切り越しに、隔離された状態で行いました。

メディアの人々と直に接することも感染症のリスクを高めるため、こうした措置が必要なのです。

ISSに到着して約半年間の宇宙滞在の間は、フライトサージャンや医療システム専任の技師などをはじめとするチームが宇宙飛行士をサポートしてくれます。血圧や酸素モニターといった基礎的な健康状態から、骨や筋肉の減少を防ぐための運動体力管理。厳しいミッションでの心理状態、放射線被ばくなど、宇宙の暮らしは人体にとって決して優しくありません。

計画していた船外活動が予想以上に時間がかかって体力を消耗したり、実験がうまくいかず悩んだり、家族と離れている寂しさを感じたり。

食事の時間は、地上と同じようにクルー同士のコミュニケーションとリラックスの時間ですが、美味しくて種類も豊富になった宇宙食といっても、宇宙飛行士がほしいと思う感覚にまかせて自由に食事をしていると食べる量が足りず、栄養が本来摂取すべき量よりも30%ほど不足してしまうという現象が知られています。栄養士の指導を受けて、しっかり食べることも健康管理のひとつなのです。

宇宙飛行士は健康状態を地上からモニターされていて、万が一のケガや病気になった場合にも、地上から処置の指示を受けながら治療を受けることができます。宇宙飛行士自身も緊急蘇生の訓練を受けていますし、「クルー・メディカル・オフィサー」という医療担当の宇宙飛行士は宇宙滞在中に救急医療を担当することになっています。

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