ウクライナ戦争が古典的な戦いになった3つの訳 テクノロジー、非軍事手段、戦争様態から考える

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この点からも明らかなように、UAV(あるいはその他の新テクノロジー)はそれ単独で戦闘の様相を一変させるというものではない。UAVが効果を発揮するためには、そのような環境を作り出す因子(エネーブラー)が必要なのであり、あるいはUAV自体がその他の軍事アセットのためのエネーブラーとして機能しているということである。

非軍事手段による「戦わない戦争」

2014年にロシアが行ったクリミア半島の強制併合やドンバス地方への軍事介入では、非軍事手段、特に情報戦の活用が注目を集めた。政変で成立した暫定政権はロシア系住民を弾圧するネオナチ集団である、政変自体が西側に操られている、ロシアに併合されれば生活がよくなる、といった情報が紛争地域の住民に浴びせかけられ、認識を操作したのである。また、ロシアはウクライナ各地のインフラに対して大規模なサイバー攻撃を仕掛け、オンライン化されたサービスの機能不全や停電といった事態を引き起こしてもいる。

翻って今回の戦争では、非軍事手段はあまり目立っていない。ロシア側は、ゼレンスキー政権がネオナチであるとか、密かに核兵器を開発しているといったナラティブを展開したものの、ウクライナ国民に幅広い動揺を引き起こすことはなかった。国民の間で偽情報に対する耐性ができていたことに加え、ロシアのSNSやマスコミが軒並みブロックされていたことがその主な要因として挙げられよう。また、ロシアが開戦前後に行った大規模サイバー攻撃も、結局はウクライナ社会に壊滅的な混乱をもたらすことはなかった。

一方、ウクライナ側は、国民と国際社会の支持を広く獲得することに成功している。被侵略側であるという道義的な正当性に加え、ゼレンスキー政権の巧みなメディア戦略がここで大きな役割を果たした。ただ、ウクライナの情報戦はロシア社会を揺るがし、プーチンに停戦を決断させるには至っていない。プーチン政権が進めてきた国内情報統制が効果を発揮している形であり、この意味でも情報戦の限界が改めて確認される。

戦争の様態

今回の戦争の様態は非常に古典的である。つまり、大量の兵士と火力を投入し、互いの軍事力を撃滅することで政治的意志の強要を目指す戦争、クラウゼヴィッツが「拡大された決闘」と呼んだ戦争だということである。実際、今回の戦争では、ウクライナ側が国民総動員令によって大量の戦時動員を行う一方、ロシア軍は新型から旧式に至るまでの多様な火砲・ロケット砲・ミサイルを大量に投入し、火力の優位を前面に押し立てて戦いを進めてきた。

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