いま、知っておくべき“知財”をめぐる世界の現状

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日本初の「知財のプロを育成する社会人向け大学院」として、国内でも屈指の教育力を誇る金沢工業大学(K.I.T.)が2004年に開設したのが「K.I.T.虎ノ門大学院」の知的創造システム専攻だ。「7科目10単位の国際標準化領域の科目群・教員ラインナップは日本最大、世界でも有数の内容」とされ、近年、特に企業などから関心が高まっている知的財産の分野に、これまで250人以上の修了生を輩出してきた。そのK.I.T.が2015年2月、「携帯電話・スマートフォン開発の裏側で繰り広げられる国際標準をめぐる対立」をテーマに開催したプロフェッショナルミーティングの内容を報告する。

最初に、専攻主任の加藤浩一郎教授が「知的財産、標準化を専攻できる大学院に関心を持っていただきたい」とあいさつして、ミーティングが始まった。
この日、中心的なテーマになったのは標準必須特許(SEP)を巡る問題だ。通信業界の分野では、たとえば、A社が製造する携帯電話やスマートフォンが、B社の提供するネットワークに接続できるようにするため、標準規格を作って、通信の手順をそろえている。しかし、標準規格を作るには、どうしても特許権に守られた技術も必要になる。これが標準必須特許(SEP)である。
最近、標準化機関では、この必須特許に関するルール、パテントポリシーの改訂が検討され、特許権の扱いを巡る激しい対立が繰り広げられている。虎ノ門キャンパスの会場には、知財・標準化業務に携わるビジネスパーソンらが100名近く詰めかけ、交渉の最前線を見てきた専門家の話に耳を傾けた。

ITU-T/TSB知財権アドホックグループでの議論
長野寿一・客員教授

経済産業省国際標準化戦略官で、標準化行政に長く携わってきたK.I.T.客員教授の長野寿一氏が、最初に、標準必須特許のルール改をめぐる議論の背景を説明した。

必須特許を巡っては、研究開発投資型で特許のライセンス収入を期待する『特許権者』と、標準必須特許を利用するものの、法外なライセンス料はできるだけ払いたくないとする、新興通信端末メーカー、チップメーカーなどの『実施者』という、大きく2種類のプレーヤーがいる。両者の異なる利害を調整するルールがパテントポリシーだ。これまで、標準化機関は、標準を作っても、必須特許のライセンス契約には関わらないという立場を取ってきた。そのため、作った標準に特許が含まれる場合、特許権者から、FRAND(公平・合理的・非差別的の略)条件で、特許の実施権を与えることを速やかに宣言してもらい、後は当事者同士の交渉に委ねてきた。

K.I.T.虎ノ門大学院 知的創造システム専攻 客員教授。経済産業省 産業技術環境局 国際戦略情報分析官。ISO/技術管理評議会日本代表メンバー、PASC(太平洋地域標準会議)事務局長を兼務

ところが、5年くらい前から、実施者と特許権者の対立が激化。日本をはじめ世界で争われて注目を集めたアップル対サムスン訴訟など、標準必須特許に関する訴訟が頻発するようになった。そこで、行政当局の意向も受けた、世界の標準化機関は、それぞれ標準必須特許のルール改訂に着手しはじめた。

今年2月のITU-T(国際電気通信連合の電気通信標準化部門)/TSB(電気通信標準化局)の知財権アドホックグループ会合に、JIS事務局から出席した長野氏は、最新動向を紹介。「米国務省が2014年のTSAG(電気通信標準化アドバイザリーグループ)に提出、否決された提案を、欧州委員会が、わずかに加筆して再提案した。議長団のリードで、これをベースにした検討が始まっている」と述べた。同提案は、差し止め請求の行使にハードルを設けるなど、実施者寄りの内容と見られており、長野氏は「今後の議論の行方に注目したい」と語った。

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